膨大な情熱と調査が生んだ、作りたくなるレシピ46品『海軍さんの料理帖』が誕生するまで
#本
■マカロニは「竹管の如き饂飩」
そこへ降臨したのが『海軍さんの料理帖』であった。別件の仕事に追われていたため、私は、発売から数日遅れて、届いていたAmazonの封を開いた。
そして、まずパラパラとページをめくっただけで、この本のとんでもない価値を瞬時に理解した。
美麗に盛り付けられた、各々の料理写真と共に紹介されるレシピ。必要な材料も、実際の調理法も、分量や煮込む時間など、ひとつひとつが丁寧に記されている。その料理に添えられた文章もまた、海軍に限らない、当時の日本の食文化を伝えてくれるものであった。
例えば「チキンマカロニー」のページ。そこには、レシピと共に、こう記されている。
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洋食を推奨していた日本海軍でも頻繁に登場するのだが、当時のマカロニは「竹管の如き饂飩」と呼ばれ、多くが30cmほどの長い棒状をしており、直前に適当な長さに切って使っていたのである。
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この、わずかな文章だけで、様々なことに気づかないだろうか。戦前から、日本でもマカロニが食べられていたこと。それが海軍でも親しまれていたこと。その形状の違い等々……。各章の合間のコラムはもちろんのことだが、こうしたレシピを紹介するわずかな文章にも、膨大な情報量が注ぎ込まれているのだ。惜しげもなく、様々な知識を提供してくれる著者の有馬という人物は、いったいどれだけの調査と実践を重ねているのだろうか。早くも尊敬の念を浮かべながら、読んでいく中で、ひときわ、目が近づいたページがあった。
■間宮羊羹レシピ解明の軌跡
それが、間宮羊羹のレシピを紹介したページであった。給糧艦・間宮は、その一隻だけで番組が作られるほどにエピソードに富み、水兵に愛され、現在も語り継がれる船である。艦艇に食糧を供給することを任務にするこの船は、大量の食材と、腕に覚えのある職人たちを乗せて太平洋を西へ東へと奔走した。普段の食事だけでなく、アイスクリームやラムネなどの嗜好品も製造し、供給していた間宮。
その中でも、羊羹は特に人気のお菓子として、現在に至るまで語り継がれている。今でも、軍港の町として栄えた呉などでは、土産品として間宮の名前を冠した羊羹が売られている。けれども、それは海軍の標準的なレシピを参考にしたもの。専門の菓子職人が乗艦し、製造していた間宮羊羹のレシピは、今ではわからなくなっていると聞いていた。
ところが、ここには、幻のはずの間宮羊羹のレシピが掲載されている。それも、写真を見たところ、普段目にするような羊羹とは、見た目も違う。表面に砂糖が浮いた姿は、それだけで「これは、うまい」と語りかけてくるようであった。
いったい、どうやって、このレシピにたどり着くことができたのか。それは、取材の時に必ず教えてもらわねばならないと思った。
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