吉高由里子が売春&快楽連続殺人鬼に豹変した!! 人間の暗黒面に迫る犯罪ミステリー『ユリゴコロ』
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「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とは違うのでしょうか」。そんな一文で始まる手記は、美紗子(吉高由里子)の生い立ちから始まる身の毛のよだつ物語だった。子どもの頃、他の子のように笑ったり、泣いたりする感情をうまく持つことができなかった美紗子は、深い井戸の中にカタツムリやミミズといった生き物を放り込むことに安らぎを覚えるようになる。美紗子に強い感情が芽生えたのは、小学校の同級生が庭の池で溺れ死んだ事故を目の前で目撃した瞬間だった。その日以来、美紗子は人間の死に立ち会うことで、自分の中にある“ユリゴコロ”がざわめくことを知る。やがて成長した美紗子は、自分の中のユリゴコロを確かめるかのように、次々と人を殺めるようになっていく。動機なき殺人ゆえに、なかなか警察の手が美紗子に及ぶことはなかった。
原作とは異なる映画版として、本作の脚本&演出を手掛けたのは熊澤尚人監督。『君に届け』(10)や『近キョリ恋愛』(14)などコミック原作の青春ラブストーリーものをヒットさせてきたが、「これまでとは違うテイストのものにトライしたい」と沼田まほかる原作小説の映画化に取り組んだ。熊澤監督が意欲的に撮り上げた過去パートが実に素晴しい。美紗子の小学校時代、同級生の女の子が池で溺れるシーンは“映像の魔術師”と呼ばれるニコラス・ローグ監督のサイコサスペンス『赤い影』(73)の冒頭シーンを思わせる。また、木々が生い茂った暗い庭の中に、ひとりで佇む美紗子の顔にだけ反射光が当たり、その表情が浮かび上がる。黒澤明監督の『羅生門』(50)の薮の中のシーンのようでもある。美紗子の中にユリゴコロが芽生えたことを示す印象的な映像となっている。若手カメラマン・今村圭佑の才気がほとばしった名シーンだ。
また、佐津川愛美が演じる、美紗子の親友・みつ子もインパクトのあるキャラクターとなっている。高校を卒業した美紗子は専門学校に通うようになり、他人とうまく交流ができずにいるみつ子にシンパシーを覚える。一般社会で生きることに苦痛を感じているみつ子は、リストカットすることでしか生きている実感を味わうことができない。みつ子がひとりで自殺しないよう、美紗子は「わたしも切って」と自分の手首を差し出す。お互いの手首に刃物を当て、血を流し合う美紗子とみつ子。誰も知らない深い谷間で、2つのユリの花が寄り添うようにひっそりと咲く。みつ子役の佐津川愛美は、ストーカー被害に遭う『ヒメアノ~ル』(16)や呪いのビデオの犠牲となる『貞子VS伽椰子』(16)など不幸を引き寄せてしまう女の子を演じると俄然輝きを発する希有な女優だ。生きづらさに悩み続けるみつ子は、やはり美紗子の手によって優しくあの世へと送られることになる。
再び、ひとりぼっちになった美紗子は就職もうまくいかず、夜の街に立つ娼婦となる。肉欲をユリゴコロにしているだろう男たちに自分の身体を投げ出し、いくらかのお金を受け取る美紗子。また、美紗子が街娼となったことで、不審死を遂げる男の数も増えていく。己の性欲を解放することしか頭にない男たちの、何とも無防備なことか。吉高由里子演じる美紗子は、シャーリーズ・セロン主演作『モンスター』(03)のモデルとなった実在の女殺人鬼アイリーン・ウォーノスのようだ。吉高の冷ややかな一重まぶたが不気味に感じられる。だが、美紗子は死刑執行されたアイリーン・ウォーノスと違って、洋介(松山ケンイチ)という罪の意識を抱えた孤独な若者と出会ったことで、殺人とは異なる新しいユリゴコロを見出すことになる。
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