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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 『禅と骨』監督に聞く20年
ドキュメンタリー映画『禅と骨』公開記念インタビュー

都市伝説のメリーさんを追い、煩悩だらけの禅僧 最期の夢に伴走した中村高寛監督が20年を振り返る

都市伝説のメリーさんを追い、煩悩だらけの禅僧 最期の夢に伴走した中村高寛監督が20年を振り返るの画像1“青い目の禅僧”ヘンリ・ミトワの生涯を追ったドキュメンタリー映画『禅と骨』。横浜出身の日系米国人が求め続けた家族像と夢が浮かび上がる。

 都市伝説として知られていた“白いメリーさん”の実像を追ったドキュメンタリー映画『ヨコハマメリー』(06)は、異例のロングランヒットを記録した。横浜の街角に白塗りの街娼として立ち続けたメリーさんは1990年代半ばに姿を消したことから亡くなったと思われていたが、『ヨコハマメリー』のクライマックスには地方都市で元気そうに暮らすメリーさんが登場し、観客は驚くと同時に戦後社会を孤高に生き抜いてきたメリーさんの素顔に胸を打たれた。そして、8年がかりで『ヨコハマメリー』を完成させた中村高寛監督の11年ぶりとなる新作ドキュメンタリーが『禅と骨』。京都・天龍寺の禅僧として修業を積んだ日系米国人ヘンリ・ミトワの生涯を描いたものとなっている。10年に1本ペースながら、誰にも真似できない映画を撮り続ける中村監督がドキュメンタリーへのこだわりについて語った。

──『ヨコハマメリー』の最後にメリーさんが登場するシーンを撮るため、中村監督はまずメリーさんのいる老人ホームで2週間ボランティアしながら通ったと聞いています。1シーンを撮るために、気が遠くなるような時間と手間を掛けていますね。

中村高寛 『ヨコハマメリー』でのメリーさんの撮影の経緯をお話すると、実はすごく悩んだんです。もともと本人不在のドキュメンタリーとして、メリーさんのことを知る関係者たちの証言で本人像を浮かび上がらせる構成を考えていたんですが、横浜から姿を消したメリーさんの居場所がいろいろ取材しているうちに偶々分かってしまった。そのことを知っているのは僕だけだったので、僕が黙っていれば本人不在のドキュメンタリーとしてきれいな構成で完成するはずでした。でも知ってしまったからには、目を背けることはできない。それで、まずメリーさんのいる老人ホームを訪ね、ただ訪ねるのも何なので、2週間ほど老人ホームで配膳などを手伝うボランティアとして通い、メリーさんとの関係性をつくっていったんです。

──メリーさんに初めて会ったときはカメラを持って行かなかった?

中村 カメラは持たずに訪ねました。メリーさんの居場所が分かった時点でワイドショー的に取材することもできたんでしょうが、『ヨコハマメリー』にはそういう取材は合わないなと思ったんです。それからメリーさんと親しくしていた映画の出演者たちに、「メリーさんはここにいます」と住所と近況を知らせるという種蒔きをしたんです。種がうまく育つかは分かりませんでしたが、メリーさんと懇意にしていたシャンソン歌手の元次郎さんが一度会いに行き、それから元次郎さんが癌になったことから再び彼にカメラを向けることになり、メリーさんのいる老人ホームでリサイタルを開く様子を撮ることになったんです。メリーさんの居場所が分かったのが2000年で、元次郎さんがリサイタルを開いたのが03年。言ってみれば、時間の演出ですね。

──メリーさんは映画が劇場公開される前に亡くなったそうですね。

中村 『ヨコハマメリー』は06年に劇場公開したんですが、メリーさんは映画の完成後の05年に、元次郎さんは完成直前の04年に亡くなりました。映画を観た方の中には「この映画は破綻している」という人もいました。本人不在のドキュメンタリーだったのに、メリーさん本人が最後に現われたからです。でも、僕はメリーさんと元次郎さんの再会シーンをどうしても入れたかった。あのシーンがないと、この映画は終われないなと思ったんです。病室にいた元次郎さんがメリーさんに会いに列車に乗るシーンの直前、元次郎さんのいない病室が一瞬だけ映るんですが、そのことを「黄泉の世界へ向かうシーンだ」という見方をする人もいましたね。そういう解釈もありかなと思います。

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