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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.441

自分ファースト、利益至上主義、弱者切り捨て! 現代社会の縮図が走るゾンビ超特急『新感染』

自分ファースト、利益至上主義、弱者切り捨て! 現代社会の縮図が走るゾンビ超特急『新感染』の画像3ゾンビ相手に素手で戦うのは、『悪いやつら』『殺されたミンジュ』のマ・ドンソク。彼の男気っぷりが本作のいちばんの見どころ。

 ゾンビウィルス感染者は韓国北部に位置するソウルから東南部のプサンへと広まっていくため、ゾンビ=北朝鮮軍のメタファーとしても映る。劇中、仲のよい老姉妹のひとりがゾンビウィルスに感染してしまい、別々の運命を辿ることになる。ヨン・サンホ監督は1978年生まれだが、「朝鮮戦争のときに北から南へと向かった避難列車のイメージが頭にあった。避難列車に乗っていた当時の人々の姿や悲劇を想像した」と来日イベントの際に語っている。

 KTXに乗り合わせていた高校生のヨングク(チェ・ウシク)ら野球部員たちは、ゾンビの群れに取り囲まれるも、女子マネージャーのジニ(アン・ソヒ)を守るためにバットを振り回して必死に戦う。それまでスマホを片手に楽しげに笑い合っていた高校生たちの運命もまた、一瞬のうちに暗転する。過剰搭載のために転覆し、多大な犠牲者を出した「セウォル号沈没事故」を連想する人も少なくないだろう。また、ゾンビ車両からの生還を果たしたサンファたちは、安全な車両にいた他の生存者からいわれなき差別を受けるはめになる。水晶玉のように、見つめる人によってそれぞれ異なる事象がこのゾンビ映画の中には映って見えるはずだ。

 一部の大人たちの「自分さえ助かればいい」という考えから、命を救えた人たちまで犠牲となり、事態はますます悪化していく。列車内だけでなく、現代人の利己主義的考え方が、この忌わしいゾンビウィルスを世界中へと広めていく。主人公のソグもその1人だった。ソグの勤める証券会社が投資していた製薬会社から研究中の新型ウィルスが漏れ出したことが、この大パニックの元凶だった。そのことに気づき、ソグは言葉を失う。ソグをはじめとする大人たちは、すでに利己主義・利益至上主義にどっぷり毒された“ゾンビ人間”だったのだ。自分たちのこと、目先の利益しか考えない“ゾンビ人間”たちを乗せて、韓国が誇る高速列車KTXは未来社会へと突き進んでいく。
(文=長野辰次)

自分ファースト、利益至上主義、弱者切り捨て! 現代社会の縮図が走るゾンビ超特急『新感染』の画像4

『新感染 ファイナル・エクスプレス』
監督/ヨン・サンホ 脚本/パク・ジュソク
出演/コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、キム・ウィソン
配給/ツイン 9月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.
http://shin-kansen.com

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『ソウル・ステーション/パンデミック』
監督・脚本/ヨン・サンホ
声の出演/シム・ウンギョン、リュ・スンリョン、イ・ジュン
日本語吹替/白石涼子、前野智昭、辻親八
配給/ブロードウェイ 9月30日(土)より新宿ピカデリーほか全国公開
(c)2015 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & Studio DADASHOW All Rights Reserved.
https://pandemic-movie.com

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最終更新:2017/08/28 18:37
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