戦国史上最大の決戦に見る日本社会の原風景とは? “三成”加藤剛vs“家康”森繁の超豪華版『関ヶ原』
#映画
事前の打ち合わせによって、福島正則は「小山評定」が始まるやいなや、家康側に就くことを大声で表明し、迷っていた他の大名たちもいっきに家康陣営に流れ込むことになる。「小山評定」のシーンを見ていると、大事な会議ほど声のデカい奴がその場をまとめてしまうというこの世の真理を実演してみせた福島正則役の丹波哲郎、家康の政治家としてのしたたかさを貫禄演技で示した森繁という、昭和の名優たちの存在感が印象に残る。
そして、いよいよ関ヶ原の決戦シーン。「義のために戦う」という加藤剛演じる颯爽とした三成、その横に三船敏郎演じる頼もしい島左近が仕えていると、西軍こそが正規軍で、ひょっとして西軍が勝つんじゃないのと思えてくるほど。ただし西軍のウィークポイントは、三成の「自分は正義のために戦う。そんな自分を裏切る人間がこの世にいるはずがない」という猛烈な思い込み。頭がよく、理に適ったことしか口にしない三成だったが、人間の心がいかに弱いかを知り尽くしていた家康のような徹底した現実主義者ではなかった。合戦の序盤は、宇喜多軍や大谷軍の奮闘もあり西軍優位だったものの、西軍側であるはずの毛利軍、吉川軍、島津軍は、それぞれの陣営から一歩も出ずに両軍の激突をじっと静観しているだけだった。日本をまっぷたつに分けた関ヶ原の戦いだが、実際に戦場で血を流しているのは秀吉子飼いの大名たち同士だった。
自分こそが正義であり、正義は必ず勝つと信じ込んでいた三成。事前の根回しによって、東軍の勝利を揺るぎないものにしていた家康。関ヶ原の戦いに出陣したにもかかわらず、最後まで態度をはっきりさせなかった毛利軍、吉川軍、島津軍……。戦国史上最大の野戦となった関ヶ原の戦いは、戦国時代の幕引きの場となったが、そこには現代の日本社会へと繋がる原風景が広がって見える。根回しや談合を得意とした家康に敗れた三成だが、最期の最期に小さな“義”に触れることになる。戦国武将とは思えない三成の真っ正直な人柄を描いたこのエピローグは、実に感動的だ。『高原にいらっしゃい』(76年)の高橋一郎、『ふぞろいの林檎たち』(83年)の鴨下信一というTBSを代表する名ディレクター2人が演出した36年前の『関ヶ原』も見応え充分の歴史ドラマである。
(文=長野辰次)
『関ヶ原』
原作/司馬遼太郎 制作/大山勝美 脚本/早坂暁 音楽/山本直純 演出/高橋一郎、鴨下信一 ナレーション/石坂浩二
出演/加藤剛、森繁久彌、三國連太郎、三船敏郎、松坂慶子、栗原小巻、杉村春子、三田佳子、竹脇無我、藤岡弘、丹波哲郎、三浦友和、国広富之、大友柳太朗、辰巳柳太郎、宇野重吉
収録時間/本編354分 特典映像/司馬遼太郎、森繁久彌、加藤剛が語る『関ヶ原の背景』(1980年収録)
(c)TBS
※ 8月23日(水)、キングレコードよりブルーレイ(3枚組 税抜き14400円)とDVD(3枚組 税抜き9300円)発売
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