トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 『東京喰種』は反体制的作品?
中国“ヤバい”漫画家・孫向文の「日本アニメ文化論」

『東京喰種』は、中国政府とウイグル人の対立を暗示する反体制的作品?

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。

 先日、実写映画版『東京喰種トーキョーグール』を見てきました。この作品は中国でも人気がありますが、その理由は、残虐描写がふんだんにあるところです。中国のエンタテインメント業界は、エロや暴力、登場人物による反体制的な発言が禁止されるなど、規制が非常に厳しいのが特徴です。本作のアニメ版も2015年、『寄生獣』や『進撃の巨人』などとともに配信停止となりました。

 そして最近、中国では全人代(全国人民代表大会)を控え、政府がナーバスになり、さらにエンタテインメント規制が厳しくなっています。先月、百度百科(中国版ウィキペディア)に記載されていた『東京喰種』の項目や、その作品にまつわるBBSが全て削除される措置が施されました。

 ですが、抑えつけられれば抑えつけられるほど見たくなるのが国民の心情です。電子書籍版の漫画サイトでは、アニメや紙の出版物よりもゆるい規制で配信されています。また、あまたの海賊版サイトも存在しており、こうしたサイトでは、中国国内の規制などお構いなしに、エロ漫画をはじめ、多くの日本の過激な人気作が配信されています。そんなグレーゾーンの刺激的な作品として、『東京喰種』が人気を博しているわけです。規制だらけの窮屈な社会にあって、少しでも過激なモノを見たいという国民感情の表れでしょう。

 とはいえ、残虐描写だけが人気の理由ではありません。日本のホラーの中には、土着的な風習をモチーフとしたものや、『呪怨』などのように、ジワジワと心理的に迫ってくるような、いわゆる「J(ジャパニーズ)ホラー」と呼ばれる作品があります。中国ではどちらかというと、ゾンビなどのようにわかりやすい、アメリカンホラー的な作品のほうがウケます。人間を食べるグール(喰種)というクリーチャーは、ゾンビと同様、万国共通の怖さを持ち合わせています。ですので、中国人読者も自然に作品に入り込むことができたのです。

 そしてもうひとつ、本作が中国人読者の心をつかんだ最大の理由を挙げるとすれば、善悪では割り切れない、深みのあるストーリーにあるといえるでしょう。これまで残虐描写が好きな中国人が見てきたのは抗日ドラマでした。ドラマは、漫画と同様に規制の厳しいジャンルですが、抗日ドラマだけは例外です。「抗日」を免罪符にした上で、カンフーの達人が日本兵を八つ裂きにするといったホラー映画並みの残虐描写が、子どもも見ることのできるドラマに盛り込まれていたのです。こうしたドラマはおおむね、脚本も何もあったものではありません。子どもだましの稚拙な作りで、まともな大人が見て鑑賞に堪え得る代物ではありませんでした。

 一方、『東京喰種』は深いテーマを抱え、脚本も練り込まれており、非常に完成度の高い作品になっています。

12
ページ上部へ戻る

配給映画