自分が好きなものを、いかに人に伝えるか――『有田と週刊プロレスと』という伝え方の教科書
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まず有田は、オカダや鈴木がどんな存在なのか、また現在の新日本プロレスの勢力図を、AKBなどを例えに出しながら、わかりやすく示していく。その上で、コピーに書かれている「事件」とはどういう意味なのかを語り始める。
それは1983(昭和58)年までさかのぼる。そこで有田がプロレスを見始めるきっかけとなった長州力vs藤波辰爾戦が行われ、初めて長州が藤波を破り、王者となった。そして翌84年2月、札幌で長州vs藤波の再戦が組まれたのだ。選手自身もファンも待ち望んだ試合だったが、入場時に長州が藤原喜明に襲撃を受け、試合が不成立になってしまうのだ。いわゆる「雪の札幌テロ事件」である。
「その後、藤波さんは控室に戻らずに、そのまま雪の街を歩いてパンツ一丁で。記者が追っかけていって『大丈夫ですか、藤波さん?』と。藤波さん、ちょっと泣いてるんですよ。『こんな会社辞めてやる』って言って。それくらい藤波さんはこの試合をやりたくて、(できなかったのが)悲しかったの」
と、有田は現場で見ていたかのように生々しく語り、それ以降、札幌は新日本プロレスにとって「事件が起こる場所」になったということをひもといていく。
「だから、札幌、『もう事件はいらない!』なんです!」と、再び「週刊プロレス」の表紙を見せる有田。
オカダと戦ったのは、長州を襲撃した藤原の直系の弟子筋に当たる鈴木。彼自身も試合前のインタビューなどで「事件」をにおわせていた。だが、「事件」は起こらなかった。
「この日、オカダ・カズチカと鈴木みのるは事件をまったく起こさず、普通に試合をして、めちゃくちゃ盛り上げたんです!」
つまり、現在の新日本は、「事件」に頼らずとも、試合内容そのもので盛り上げることができる。そのことを表現した表紙だった。その短いコピーの中に、それだけの歴史と意味が詰まっていることを、有田は鮮やかに解説するのだ。
好きなものを伝える時、熱すぎても相手は冷めてしまう。逆に冷静に客観視しても、相手は引き込まれない。ならば、どうすればいいのか? そのお手本が『有田と週刊プロレスと』の有田の解説だ。自分の知識をひけらかしたり、自分の好みと物事の優劣とを混同したりは決してしない。いかに相手に伝わるかを第一に考え、提示する情報を取捨選択していく。その上で思い入れを加えることでメリハリが生まれ、話自体が面白く、聞きやすくなる。
「プロレスとは人生の教科書」と番組は言うが、『有田と週刊プロレスと』の有田の語り口こそ、人への伝え方の教科書なのだ。
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/)
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