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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > “14歳の国”に触れた教師の恐怖劇
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.436

生徒不在での抜き打ち検査という実話を映画化! “14歳の国”に触れた教師たちの恐怖劇『狂覗』

 森先生の口利きでこの中学校に臨時教員として採用されることが決まった国語教師の谷野(杉山樹志)は、生徒不在時の所持品検査に抵抗を示す。だが、「生徒を貶めるためや罰するためやない。見えない生徒の内部構造をちょこっと覗く程度や」と、かつては熱血教師だった森先生に関西弁で捲し立てられ、簡単に言い含められてしまう。生徒たちのケータイには当然ブロックが掛かっているものの、クラスにひとりはガサツな生徒もおり、ブロックを掛け忘れているケータイが見つかる。そこから、生徒たちの闇サイトの実態が明るみになっていく。さらにこのクラスで起きる問題の中心人物と思われ、芸能人並みの容姿を誇る女子生徒・万田の存在もクローズアップされる。彼女のケータイの中身をチェックするために、メモリーカードまで抜き出してしまう。教師たちの秘密検査は際限なく、どこまでもエスカレートしていく。それと同時に“14歳の国”に触れてしまった彼らも無事ではいられない。生徒たちの心の闇と教師たちの歪んだ欲望とが結びつき、得体の知れない魔物が教室内で蠢き始める。

0721_kyoshi_movie03.jpg多発するいじめ問題、教師による性犯罪の増加から、本作を撮らずにはいわれなかったと藤井監督は語っている。

 教室という名の密室で繰り広げられるこのサイコミステリーは、出演者たちが衣装、美術、特殊メイク、音声などのスタッフワークもすべて兼任する形で、わずか5日間で集中して撮り上げられた。5日間のうち4日完徹というハードスケジュールでの撮影だったため、教師役を演じた出演者たちのやりとりはリアルにギスギスして映る。教師たちの心理状態に合わせて、カメラも観客の不安感を煽るように揺れ動く。撮影を兼任した藤井監督は、苦心して本作を撮り上げた動機について以下のようにコメントしている。

「撮影したのは2015年で共謀罪を意識したわけではありませんが、管理社会・監視社会の恐怖というのはほとんどの映画監督にとって共通のテーマだと言っていいと思います。共謀罪が話題になる前から、多くの映像作家たちがこのテーマを扱っており、それは戦前の治安維持法への反抗意識からくるものだと考えられます。原作にある“秘密裡に荷物検査する”というプロットに僕が惹かれたのはそんな理由からです。時事ネタではなく、常にある問題ではないでしょうか。“起きてない犯罪を未然に防ぐ行為は、刑を執行する側の私利私欲に走る状況をつくりやすい”ということを本作では描いたつもりですが、今の社会状況に関係なく常にみんなが考えるべきことだと思っています。我々映像作家はそんな危機感を促す必要性があると考えています」(藤井監督)

 かつては誰もが経験し、すでに卒業したつもりになっていた“14歳の国”だが、藤井監督は現代社会を箱庭化した世界として再び我々の前に突き出してみせた。SNSの普及や少数派を排斥しようとする現代の不寛容さが加わり、“14歳の国”はますます複雑化している。10代の頃のような柔軟さや無邪気さを失ってしまった大人が、この国に再入国するにはかなりの覚悟を必要とする。
(文=長野辰次)

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『狂覗』
原案/宮沢章夫 製作総指揮/山口剛 監督・脚本・撮影・編集/藤井秀剛
出演/杉山樹志、田中大貴、宮下純、坂井貴子、桂弘、望月智弥、種村江津子、納本歩、河野仁美、宇羅げん、小野原舞子
配給/POP 7月22日(土)よりUPLINK渋谷にて公開
(c)POP
http://www.kyoshi-movie.com

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最終更新:2017/07/21 22:30
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