ヒトラー&ナチス映画が最近増えているのはなぜ? 「欅坂46」も巻き込んだナチズムの危険な魅力
#映画
現代社会に甦ったアドルフ・ヒトラーが毒舌コメディアンとして人気を博し、マスメディアをたやすく牛耳っていくブラックコメディ『帰ってきたヒトラー』(15)はドイツ本国で大ヒットしただけでなく、日本でも2016年に劇場公開され、単館系では異例といえる興収2億円のヒット作となった。『帰ってきたヒトラー』のほかにも、ホロコーストを指揮したアドルフ・アイヒマンに焦点を当てた『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(15)や『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』(15)、アウシュビッツ裁判が開かれるまでのドイツの実情を暴いた『顔のないヒトラーたち』(14)、ナチ犯罪の爪痕を描いた復讐劇『手紙は憶えている』(15)など様々なヒトラー&ナチ関連映画が日本で公開され、それぞれ話題を呼んだ。
今年もナチ映画の劇場公開が目立つ。7月8日から公開が始まった『ヒトラーへの285枚の葉書』は平凡な労働者階級のドイツ人夫婦が主人公。それまでナチ政権を支持することに何ら疑問を感じることのなかった夫婦が、ひとり息子を戦争で失ったことからヒトラー批判のメッセージカードをベルリン市中に配り歩くようになった実在の事件を描いた感動作だ。8月12日(土)より公開される『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』はナチスによるチェコ支配に抵抗したレジスタンスたちを主人公にしたスリリングな実録映画。映画の後半には激しい銃撃戦が待っている。やはり実話を基にしたユダヤ人少年少女たちのサバイバルロードムービー『少女ファニーと運命の旅』は8月11日(金)より公開される。ユニークな作品としては、ジョニー・デップとリリー=ローズ・メロディ・デップが父娘共演した『コンビニ・ウォーズ バイトJK vs ミニナチ軍団』(公開中)があり、カナディアンナチスを自称した実在の人物エイドリアン・アルカンを元人気子役のハーレイ・ジョエル・オスメントが演じている。
なぜゆえ、こうもヒトラー&ナチ関連の映画が最近多いのだろうか。ドイツ現代史研究者で、早稲田大学の非常勤講師を務めている増田好純氏に、日本人があまり知らないドイツの内情について語ってもらった。
増田「ヒトラーやナチスドイツを扱った映画が最近いろいろと作られるようになった背景のひとつとして、戦後70年が経過してドイツでもようやくヒトラーやナチスが歴史として認識されるようになってきたということが言えると思います。戦後のドイツは、ヒトラーやナチスが犯したユダヤ人大虐殺などの大規模犯罪と向き合うことで国際社会からの信頼を得てきたという経緯があります。その反面、自国でヒトラーやナチスを描くことにはとてもナーバスで、タブー視されてきました。『ヒトラー 最期の12日間』(04)は戦後初めてヒトラーを正面から描いたドイツ映画でしたが、政治的な解釈は回避した内容でした。ドイツは戦後ずっとナチ犯罪被害者への補償を続けてきたわけですが、1990年代終わりに持ち上がったナチ政権下における強制労働に対する補償問題は“最後の大規模なナチ犯罪”と呼ばれ、紆余曲折しながらも2001年に基金が設けられ、2007年に補償金の支払いが終了しています。このことから、ドイツ人の喉元にずっと刺さったままだったナチズムの棘が国際政治的にようやく抜けたという感覚になったようです。それ以降、ヒトラーやナチスを題材にした小説や映画などがナチズムの再評価に関わらない限りで容認される雰囲気ができ、ここ数年で次々と形になってきているように感じます」
日本では人気アイドルグループ「欅坂46」が昨年のハロウィンイベントの際にナチス親衛隊を思わせる衣装を着たことが大きな波紋を呼んだが、ドイツでは今でもナチスを連想させる表現は厳しく取り締まられている。
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