結局は9割が大樹に拠った……80年代に「フリーター」を推奨した人々の、その後の人生
#雑誌 #出版 #昼間たかしの「100人にしかわからない本千冊」
■フリーターを絶賛した人々の現在
それを、若者を「使う」側の人々が、さらに後押しをした。フリーターというのは、充実した人生を送ることのできる素晴らしい生き方なのだと……。
バブル時代、学研が発行していた女性誌「ネスパ」1988年5月号の特集「フリーアルバータの魅力!!」は、そんなフリーターとして生きることを絶賛しまくる記事。すでにリード文からしてテンションが高い。
仕事=フルタイムワーク……なんて考え方はもう古い!
自分のライフスタイルにあわせて好きな時、好きな形(スタイル)で働く人たち、これがフリーアルバイターです。
やりたいことをやりぬくためにあえて就職しないという生き方、ステキだと思いませんか?
……こんなテンションで始まる記事ゆえに、紹介されるフリーターとして生きる女性たち=読者が憧れるべき存在もレベルが高い。
まず紹介されるのは、昼は劇場事務で稼ぎつつ夜は舞台に立っている劇団女優。週6日働いて、月収は15万円。なるほど、誌面にとっては理想的な夢に生きているタイプ。いったい、今はどうしているのかと調べてみたら、現在も女優業のほか舞台演出や脚本で活躍を。いやいや、早稲田の二文→劇団って、これはフリーター以前にそういう生き様じゃ……。
おそらく、こんな初志貫徹な人生は例外中の例外。続いて紹介されるのは、毎日ウィンドサーフィンをするために、仕事は月に20日ほどキャンギャルやイベントコンパニオンだけという女性。文中では「24歳までは本気で海で遊ぼうと決めた」と書いているから、今は陸に上がって暮らしているのかなと勝手に想像。
もっとも強烈なのは、子ども会のボランティアが楽しいので、仕事は週3日、月収5万円のみという女性が。これ、賞讃されるよりも、誰かが止めたほうがよい案件だと思うのだけど、どうだろうか?
そんなフリーターの女性たちよりも強烈なのが、特集の後半に登場するフリーターとしての生き方を賞讃する業界人たち。
こちらは、現在の状況も追いやすかったので、そちらも一緒に紹介したい。
まず「女性は自分の好きな仕事をしたいから、結果的にフリーターが多くなる」という主旨で語る、当時「とらばーゆ」編集長だった江上節子氏は、現在は武蔵大学で教授に。
「いつも燃えていないといけないんです」と語るシンガー・和田加奈子氏は、その後、一般男性と結婚し引退。離婚後、マイク眞木と再婚し、時々テレビにも出演している。フリーターの名付け親ともいえる「フロムエー」編集長だった道下勝男氏は、さまざまな企業を経て、トータルヘルスプロデュースを行う企業の役員に名前がある。
なんだろう。フリーターを推奨していたハズの人々から感じる「寄らば大樹の陰」感は。
唯一、企業に入っても先細りならばフリーでもよいのではないかと語る、西川りゅうじん氏は、現在もさまざまな大規模イベントのプロデューサーなどに名を連ねている。この西川氏の生き様で賞讃したいのは、いかに時代が変われども、常にバブル的な動きのある場所を見つけ、そこで自身の仕事を生み出すクリエイティブ力。
いや、結局、これくらいの能力がなければフリーターはできなかったのか。世の中は残酷なものだ。
(文=昼間たかし)
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