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日刊サイゾー トップ > 社会  > 御朱印帳のネット転売、なぜ?
【総力ルポルタージュ】

行ってみて聞いてわかった 御朱印帳のネット転売で、なぜ宮司は「もう来ないで下さい」と書いたのか

行ってみて聞いてわかった 御朱印帳のネット転売で、なぜ宮司は「もう来ないで下さい」と書いたのかの画像3

■拝殿で取材をするという初めての体験へ

 掲げられた案内をカメラに収めていると、ふいに社務所の扉が開いて差袴の男性が出てきた。「宮司さんですか?」と呼び止めると、その通りであった。

「狭いんですけど……」

 そう言いながら、宮司は社務所の中へと案内してくれた。挨拶しながら渡してくれた名刺には二つ折り。裏表には神紋とURLと地図。開くと「宮司 下村良弘」の名前と住所や電話番号。そしてQRコードも記された、コンパクトに情報が詰まった名刺だった。

「こちらのほうが涼しいですから」

 そう言って案内してくれたのは、社務所から続く拝殿であった。祈祷を受けるわけでもないのに、そんなところで取材をするのは畏れ多いような気もした。だから、拝殿に入るとき、座るときと二度三度と神様のほうに会釈をしてから座った。掃除の行き届いた拝殿には、大小二枚の古い絵馬が掲げられていた。どちらも、神社の祭神である素戔嗚尊にまつわる八岐大蛇退治を描いたもの。後から神社のサイトで得た情報では、大きい方は慶応2年に奉納された加納友信作のもので、市の文化財にもなっている。その絵馬は、ところどころが色が落ちてしまっていることで、神社の歴史の長さを語っているように思えた。

 何から話を聞こうか。相対した下村を前にノートとレコーダーを手に私は少し考えつつ、自分の人となりやこれまで書いたものについて語ってから、話を切り出した。

■御朱印帳は氏子のみなさんへの記念品だった

「ここまで、注目されるとは思わなかったのではないですか?」

 下村はすぐに話し始めた。

「今朝もテレビのニュースに取り上げられました。それに、先日はラジオでも話をして……。びっくりしてますね。そこまでは思わなかったですね」

 それから私は、騒動の発端となった御朱印帳のことを聞いた。私も、その御朱印帳のデザインは、境内に1枚だけ掲示されていたポスターで初めて見た。モチーフとなっているのは、やはり素戔嗚尊による八岐大蛇退治。それを頒布品としたきっかけを知りたかったのだ。やはり、近年の御朱印ブームにあやかったのだろうか、と思っていたからだ。

 でも、そういったブームとはなんら関係はなかった。

 御朱印帳を作ったのは5月下旬のこと。その目的は、氏子への記念品としてのものだった。

「今、神社とか御神輿を修理しているんです。御神輿は今度の7月のお祭りでお披露目するんですが、境内の工事で地域の方にご迷惑をかけています。それで、何か記念品をということで氏子のみなさんと相談したんです」

 最初は、風呂敷がよいとかさまざまな意見が出たが、今は御朱印が人気。「これがあると、いろいろな神社を巡ってもらえるではないか」そんなふうに意見がまとまって、御朱印帳をつくることになったのである。

 だから、本来は氏子に配るための記念品。そのうち何十部かを一般の方にも頒布することにしたのである。頒布するのはわずかな部数だけ。告知もほとんどしなかった。

「頒布を始めたときには境内でポスターを貼ったりもしなくて、Twitterで告知しただけです。あとは、Facebookくらいですね。でも、多分それを見たんだなと思われる方が、次の日からいらしていて、Twitterってすごいなと思って見ていたんです」

 そのときは、まさか転売を目的にしてやってきているなどと、思いもしなかった。しばらくして、下村は頒布した御朱印帳が喜んでもらえているだろうかと、ネットを検索してみた。

「そうしたら、最初に出てきたのがヤフーオークション(ヤフオク!)だったんです……」

 私も事前にネットで検索してみたところ。同様のものを見つけた。そこには、こんなタイトルがつけられていた。

「【限定】守谷総鎮守八坂神社御朱印帳 ~茨城県守谷市~ 御朱印有」

 これを見たときは、私もなんともいえない気分になった。もはや、ヤフオク!やメルカリなどで、本来は神社に出向いて参拝し、神様と縁を繋いだ上で授与して頂く御朱印や御守りは、当たり前の様に転売されている。そうしたものを見るたびに、私は感じるのだ。理屈以前に、世の中にはやってはいけないことがある。なんで、こんなごくごく当たり前の、やってはならないとこがわからぬ人が大勢いるのか……。我欲にまみれて転売なんてすれば、稼いだ小銭以上のものを失ってしまうはずなのに。

 下村の説明によれば、部数は少ないが限定品では決してない。それなのに「限定」という文字まで添えられた御朱印帳は、すでに4,500円で落札済みであったという。下村が、最初に感じたのは驚きだった。まさか自分の神社が転売目的のターゲットになるとは思ってもいなかったのだ。

「ご覧の通り、うちの神社は地域密着の小さな村の神社です。ですので、神社の集まりなどで、御朱印帳が転売されている話を業界の中で聞いていても、ああ大変ですねという感じでした。いろんな大きな神社で頒布されている御朱印帳があるじゃないですか。そういうところの話なのかなと思っていたんです」

 それは、Twitterの短い言葉では言い表せない複雑な気持ちを抱かせるものだった。なぜなら、この御朱印帳には多くの思いがこもっていたからだ。

 先に記したように、本来の目的は境内も御神輿も修理を終えたことを氏子に挨拶する意味も含んだもの。自分たちの地域の神社が、また新しい時代に向けて節目を迎えた。その喜びを一緒に感じたり、御朱印帳を見るたびに思い出してほしい。そんな思いが込められていたことは想像に難くない。何しろ、下村は完成までデザイナーと18回もリテイクを繰り返したというのだ。

「やっぱり、みなさんの手元にいったときに、きれいだなとか、いいものを受けたなと言ってもらいたい。だから、御朱印帳は地域に由来して、愛されている八岐大蛇退治をデザインして、皆さんに喜んでもらえるものを……と思って作ったんですよね」

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