監督メル・ギブソンが描く沖縄地上戦の地獄絵図!! 戦場を丸腰で闘った男の記録『ハクソー・リッジ』
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沖縄戦において日本軍が選んだ戦術とは、沖縄の住民たちを守るための防衛戦ではなく、本土決戦を1日でも遅らせるための捨て石作戦だった。米軍がハクソー・リッジ(のこぎり崖)と呼んだ絶壁上にある前田高地には、深い深い地下壕が掘られ、米軍をあえて上陸させた上で、至近距離からの白兵戦を日本軍は挑む。双方の機関銃から鉄の雨が吹きつける中、米兵・日本兵の肉塊が次々と山積みとなっていく。手足は千切れ、顔や内臓が砕け散る。生きるか死ぬかは、もはや運次第。前田高地に送り込まれた兵隊たちは、米兵も日本兵もルーレットの上を転がり続ける球のようなものだった。一発で即死できた者は幸運だった。そんな狂気の生き地獄にいながら、デズモンドはあくまでも衛生兵としての職務をまっとうしようとする。
多大な犠牲を払って前田高地を制圧した米軍だったが、そこはまだ地獄のエントランスでしかなかった。夜が更け、デズモンドたちが浅い眠りに就いていると、アリの巣のように縦横無尽に張り巡らされた地下壕から日本兵が日本刀や手榴弾を手に肉弾戦を仕掛けてきた。堪らず米軍に撤退命令が下される。ところが、ここでまたデズモンドは軍の命令に背く。死体だらけの前田高地に独断で残り、米兵・日本兵を問わず、息のある負傷兵をロープに吊るして150メートルある崖下へと下ろす作業を一昼夜にわたって続ける。『アメイジング・スパイダーマン』(12)に主演したアンドリュー・ガーフィールドだけに、ロープさばきが実に鮮やかだ。
メル・ギブソンは監督作『パッション』(04)でゴルゴダの丘で処刑されたイエス・キリストの最期を描いたが、『ハクソー・リッジ』のデズモンドこそ現実世界に現われた救世主だった。アンドリュー・ガーフィールドは鎖国時代の日本を舞台にした『沈黙 サイレンス』(16)にも主演しているが、『沈黙』の神様が最後まで無言だったように、『ハクソー・リッジ』でもやはり神様は傷ついた者たちを決して救うことはしない。ただ、神の存在を根っから信じるひとりの人間が傷ついた人々を救うことになる。
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