監督メル・ギブソンが描く沖縄地上戦の地獄絵図!! 戦場を丸腰で闘った男の記録『ハクソー・リッジ』
#映画 #パンドラ映画館
戦争とは国の命令で行なわれる人と人との殺し合いだが、人命を救うことを目的に戦争に参加したおかしな一人の男がいた。太平洋戦争末期、壮絶さを極めた沖縄戦において米軍の第77師団に“衛生兵”として従軍したデズモンド・ドスがその人だ。『ブレイブハート』(95)でアカデミー賞作品賞・監督賞を受賞したメル・ギブソン監督は、米軍で変人扱いされ続けたデズモンドを主人公にした嘘のような本当の話を『ハクソー・リッジ』として映画化している。
主人公となる若者デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)は米国バージニア州出身。彼のプロフィールを語る上で重要となってくるのは、イエス・キリストの再誕を信じる「セブンスデー・アドベンチスト教会」の敬虔な信者だったということ。第一次世界大戦に従軍した父トム(ヒューゴ・ウィーヴィング)は戦場からの帰還後はアルコール依存症となり、家庭内での口論や暴力が絶えなかった。聖書を心の拠り所にした少年期を過ごしたデズモンドは、年頃になって病院で出逢った看護士ドロシー(テリーサ・パーマー)と恋に陥る。折しも第二次世界大戦が本格化し、自分だけが幸せになることにデズモンドは疑問を感じ、ドロシーや戦場の恐ろしさを知るトムの大反対を押し切って、志願入隊してしまう。「なんじ、殺すことなかれ」と説く聖書の教えを守るため、衛生兵としての入隊だった。
グローヴァー大尉(サム・ワーシントン)率いるライフル部隊に配属されたデズモンドだが、聖書の教えを貫き、頑なに銃を手にしようとしない。安息日には演習にも参加せず、祈りを捧げるだけ。当然ながら、部隊内でデズモンドはいじめの標的となる。夜宿舎のベッドで眠っていると、『フルメタル・ジャケット』(87)のおちこぼれのデブのように、毛布の上からボコボコにされる。最初の休日にドロシーと結婚式を挙げる約束を交わしていたが、ライフルの演習がまだ済んでいないという理由から休日を取り消されてしまう。上官たちから「早く除隊したほうが、君のためだ」と忠告されるも、デズモンドの決心は揺るがない。ついには軍法会議に呼び出される騒ぎとなる。
異民族による人間狩りの恐怖を描いた『アポカリプト』(06)以来の監督作となったメル・ギブソンだが、軍隊内のいじめ描写はいっさい手加減なし。さらにメル・ギブソンは初代『マッドマックス』(79)らしく、物語後半からはフルスロットルでバイオレンス描写のレッドゾーンへと飛び込んでいく。それまでの軍隊内でのいじめが、ほんのままごとのように思えてくる。沖縄に向かったデズモンドたちは、暴力の果てしない無限地獄へと転がり落ちていく。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事