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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.430

人身売買、二重婚、売春斡旋、すべては家族のため『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』

人身売買、二重婚、売春斡旋、すべては家族のため『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』の画像2中国で暮らす義母たち。彼女らにしてみれば、人身売買は犯罪ではなく「お金を払った上に脱北者を受け入れた」行為だった。

 マダム・ベーの中国の農村での生活だが、貧しいながらマダム・ベーは中国夫や義母から気遣われていることが分かる。マダム・ベーが闇ブローカー業に精を出している間、中国夫は「オヤジ、お前はもっと働け」と実の父をどやしつける。義母からも「嫁が嫌がるから、室内でタバコを吸うんじゃないよ」と責められる。義父は脱北妻よりも立場が弱い。カメラに向かって話すシワシワ顔の義母の言葉が泣かせる。「息子は4人いて、3人には中国人の嫁を見つけることができたが、この子には見つけることができなかった」。お金で買われて連れてこられた中国の農村だったが、マダム・ベーは人間扱いされた生活を送っていた。北朝鮮と中国に2つの家族を持つ、マダム・ベーの奇妙な二重生活をカメラは収める。

 中盤以降はまるで予測できない展開に。マダム・ベーはやはり北朝鮮に残してきた2人の息子のことが気になる。母子一緒に暮らすため、まずは息子たちに北朝鮮から韓国へと脱北するよう指示を出す。さらにはマダム・ベー自身が韓国を目指すことに。親身に接してくれた中国夫と義母に事情を話すマダム・ベー。脱北者は国籍がないから、今のままでは中国夫と正式に結婚することができない。だから一度韓国へ行き、そこで脱北者として認められれば韓国籍が手に入る。そうすれば中国夫の正式な嫁になれると。こんな口約束を誰が信じるんだろうと思っていたら、中国夫と義母はあっさりOKした!! 彼らは人を疑うことを知らないのか、それともマダム・ベーのことを心から信頼しているのか……。

 マダム・ベーが進む脱北ルートが壮大だ。中国大陸をずんずんと南下して、ラオスやタイの国境を越えるというもの。そしてタイから空路もしくは海路で韓国を目指す。『西遊記』の三蔵法師も、『深夜特急』の沢木耕太郎もびっくりの“シルクロード”ならぬ“脱北ロード”。しかもマダム・ベーは、同じように脱北してきた女性たち(中には子連れも)を伴ってのキャラバンを組む。なぜかカメラを持っていたユン・ジェホ監督も巻き込まれて、マダム・ベーたちと一緒にラオスの険しい山々を越え、タイの危険な“黄金の三角地帯”を潜り抜け、河を渡る超絶サバイバルツアーに挑む。フジテレビの『NONFIX』がいつのまにか『水曜スペシャル 川口探検隊』へとシフトチェンジ! ジェホ監督は一行についていくので精一杯で、カメラを回す余裕はほとんどない。

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