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日刊サイゾー トップ > エンタメ > テレビ  > 『ドキュメント72時間』の独特な構造

答えは求めない――「禅寺密着」が可視化した、NHK『ドキュメント72時間』の独特な構造

■修行体験したからって“答え”なんか見つからない

 もちろん、深い事情を抱えて修行に励む者もいる。22歳の女性は、かつて警察官になりたいという夢を抱えていたそうだ。

「警察官、パトカーに乗りたいという夢を持っているのに、私は人をひいてしまった。……それを思ったときに、自分は警察官になる資格もないし、パトカーに乗れないと思って(泣)」

 これからどう生きていけばいいのか迷ってしまった彼女。自身の事情を知っている人から離れれば、本当に自分がしたいことが見えてくるのでは? と、お寺へやって来たのだ。

 契約社員として働く40代の既婚女性は、子どもが3人いるという。この女性、お寺へ来た本当の理由を家族に伝えていない。現在のご主人とは再婚で、前夫は離婚した後に自殺してしまったそうだ。

「実は今日、命日なんですよ。お寺っていうのもあるから、供養ではないですけど、ちょっとそういうのを考えたいなと思って」

 宝泉寺の住職は、こう語っている。

「ここで自分の問題が解決するとかいうことは、そんなにないと思いますよ。ただ一回、荷物を下ろして、自分の生命力を高めて、それでもう一回荷物を持って自分の人生を生きていくというね。そこに意味があるわけですよ」

 やはり、修行体験で“答え”を導き出すのは難しい。無の境地やこれからの道筋を、3泊4日の修行で手にするなんて、そもそも無茶な話だろう。

■『ドキュメント72時間』の独特な構造

 結論ありきで制作されるドキュメントは少なくない。そんな中、『ドキュメント72時間』の構成は新鮮だ。結論はあまり重要ではなく、とにかく72時間カメラを回すだけ。この手法が評判を呼び、今ではノンフィクションとして独特の立ち位置を確立した。

“答え”はあまり重要ではなく、迷える現代人を受け入れるままの禅寺。カメラを回し続けて素材は提供するものの、結論は視聴者へ委ねる『ドキュメント72時間』。

 今回のテーマ「禅寺修行、始めてみました。」は、この番組の構造そのものと、驚くほどにリンクしていた感がある。うがった見方をすれば、ちょっとした特別回だったように思う。
(文=寺西ジャジューカ)

最終更新:2017/06/02 19:37
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