記録よりも記憶に残る“裏方夫婦”の映画年代記! 『ハロルドとリリアン』がいたから名作は生まれた
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一方のリリアンはスタジオシステムが縮小されていく中、自分でライブラリーを運営することを決意する。リリアンのライブラリーには、資料を探しにくる若いスタッフや、明るい性格のリリアンとの談話を楽しみにしている映画監督たちが集まり、サロン的な役割も果たすようになる。しゃがれ声で有名なミュージシャンのトム・ウエイツも若い頃に出入りし、デヴィッド・リンチ監督は借りた資料を丁寧に元にあった棚に戻そうと努めた。リリアンに呼び出された元麻薬王と麻薬取締官がお互いの素性を知らずに鉢合わせることもあった。リリアンが司書を務める映画図書館を舞台に、三谷幸喜あたりがワンシチュエーションの脚本を書いたら、すっごく面白いドラマになりそうだ。
ハロルドが87歳で亡くなるまで、60年間にわたって夫婦生活を続けたハロルドとリリアン。恋愛映画の主人公カップルと同じくらい、顔合わせがコロコロと変わるハリウッドでは非常に珍しい。ハロルドとリリアンの夫婦仲を深く結びつけたのは3人の息子たちだった。中でも長男が自閉症だったことから、夫婦は人一倍の愛情を子どもたちに注いだ。そして仕事仲間に対しても家族のように接し、彼らが手掛ける新しい映画に喜んで参加した。ハロルド&リリアンと長く親友として交流を続けたコメディ監督のメル・ブルックスや俳優のダニー・デヴィートらは、楽しげに夫婦のこと、作品づくりのことを振り返る。ハロルド&リリアンは、記録ではなく記憶に残るハリウッドカップルだった。
裏方さんのことを英語ではunsung hero、歌に歌われることのない英雄と呼ぶ。でもハロルドとリリアンが作品づくりに励んでいる姿は、まるで2人でお気に入りの歌をハモっているかのようだ。歌に歌われるよりも、歌を歌うほうがずっと楽しい。ハロルド&リリアンはすごく当たり前のことに気づかせてくれる。『ハロルドとリリアン』には裏方さんに対する最上級の敬意と愛情が込められている。
(文=長野辰次)
『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』
エグゼクティブ・プロデューサー/ダニー・デヴィート 監督・脚本/ダニエル・レイム
出演/ハロルド&リリアン・マイケルソン、フランシス・F・コッポラ、メル・ブルックス、ダニー・デヴィート、アルフレッド・ヒッチコック、デヴィッド・リンチ
配給/ココロヲ・動かす・映画社 5月27日より恵比寿YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー中
(C)2015 ADAMA FILMS All Rights Reserved
http://www.harold-lillian.com
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