記録よりも記憶に残る“裏方夫婦”の映画年代記! 『ハロルドとリリアン』がいたから名作は生まれた
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ハリウッドの黄金時代も終わり、かつてのスタジオシステムは弱体化していくことになるが、それに反比例するかのようにハロルドとリリアンは映画業界に欠かせない存在となっていく。スタジオシステムが機能していた時代は、撮影スタジオに行けばスタジオ内には多彩なスタッフが常駐しており、新作映画の情報が入るやいなや、有能なスタッフが様々なアイデアと共に馳せ参じてくれた。スタジオシステムが縮小していく中で、ハロルドとリリアンは夫婦でその役割を果たす。退屈なシナリオを抱えて困っていた監督も、この夫婦にお願いすれば、ハロルドがイマジネーション溢れるイメージボードを描き、リリアンが物語に深みを持たせる面白い資料を用意してくれた。困ったときの神頼みならぬ、ハロルド&リリアン頼みだった。
ヒッチコック監督の代表作『サイコ』(60)のシャワーシーンの絵コンテを描いたことでソール・バスは有名だが、ハロルドは彼ほど世間には名前を知られてはいない。ソール・バスは映画タイトルや映画ポスターの他にも幅広く商業デザイナーとして活躍し、ひとりのアーティストとして認識されていたが、ハロルドは映画界の裏方職人に徹していたからだ。また、絵コンテ作家は裏方中の裏方であり、実写映画では絵コンテ作家の名前はクレジットされなかった。映画監督たちの多くは、できれば名シーンを考えた手柄を自分のものにしておきたかった。リリアンも同じだった。ライブラリーで黙々と資料集めに尽力するリサーチャーも、エンドロールにクレジットされる機会は少ない。でも、面白い映画ができ、ギャランティーが支払われ、家族が食べていける、慎ましい幸せをハロルド&リリアンは望んだ。
裏方人生を歩んできたハロルドに転機が訪れる。撮影用のセットが崩壊する事故が起き、ハロルドは両足に大きな傷を負い、撮影現場に出るのが難しくなってしまう。一時期は酒に溺れたハロルドだが、リリアンから「酒をやめないと離婚よ」と脅されて、あっさり更生。若手の面倒見もよかったことから、ハロルドはプロダクションデザイナーとして美術部門を統括する立場に格上げされることに。SF映画『スター・トレック』(79)で、晴れてハロルドはアカデミー賞美術賞に初ノミネートされる。「アカデミー賞にノミネートされたお陰で、いろんな仕事がくるようになった。成功作がひとつあれば、他の失敗作を黙っていられるからいい」とユーモアたっぷりに語る様子もまた、ハロルドらしい。
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