あばれる君、イモトアヤコ、平野ノラ…生き残るのは誰だ? キャラ芸人を乱発するナベプロ――ブルゾンも使い捨て!? の育成戦略
――テレビをつければ毎日どこかに出ているブルゾンちえみ、平野ノラ、あばれる君……彼らはナベプロ所属のタレントだが、早くも一発屋となりそうな予感がする。ネタ以外で本当に需要があるのだろうか?ネットではつまらない芸人の代表としてあげつらわれている彼らは、なぜテレビバラエティ番組で使われるのだろうか?
強烈なビジュアルと、キャッチフレーズが頭に刺さる中毒性の高いネタ。瞬く間にブレイクし、テレビで見ない日はないほどの活躍を見せる一方で、バラエティ番組を切り盛りするほどのトーク力があるわけではなく、卓越した漫才やコントを作る構成力があるわけでもない。そして、気がつけば忽然と姿を消している――そんな芸人といわれて、誰を想像するだろう。一昔前ならダンディ坂野、波田陽区、近年では8.6秒バズーカーやエド・はるみ……そして現在絶賛ブレイク中だが、ブルゾンちえみや平野ノラなどもその系譜を辿るといわれることが多い。こうして俯瞰すると、ここのところ渡辺プロダクション(以下、ナベプロ)に所属する芸人をテレビで目にする機会が多いことに気がつく。これは偶然なのだろうか?
本稿では便宜上、こうした芸人たちを「キャラ芸人」と呼ぶ。近年のお笑い界に氾濫するキャラ芸人はなぜ生まれ、消えていくのか。テレビバラエティの制作現場では、何が起きているのか――?
まずキャラやポジありき 粗製濫造される芸人たち
芸能界は厳しい世界だ。常に刺激の強い笑いに飢えた視聴者の審美眼にさらされるだけでなく、日々現れる新たな才能との競争に勝ち抜かなければならない。2発目、3発目のネタを当て、お茶の間でおなじみの顔となっていくのは至難の業だ。しかし、「キャラ芸人が生き残れないのは、彼らの能力の問題だけではありません。事務所の育成方法やマネジメントも大きく関係している」と指摘するのは、芸能プロ関係者A氏。
「ナベプロの育成方針は、『粗製濫造』な部分がある。とにかくたくさんの志望者を養成所に入れ、その中で少しでも売れそうな人材を探す。そしてキャッチーなキャラや演出を付加して、自社制作のテレビ番組に挟み込んでいきます。その中からブレイクする芸人がいればいいという考え方なんです。一時期、『エンタの神様』(日テレ系)など、キャラ芸を売り出すネタ番組が流行し、テレビ界からもキャラ芸人が求められた。ネタ番組がほとんどなくなった今、テレビ番組の動向を注視しながら空いているポジションを探して、求められるタレントを売出しているのです」(同)
A氏が例としては挙げたのは、イモトアヤコ。彼女は、ナベプロ養成所のタレントコース出身。“女版出川哲朗”を企図して売り出されたのだという。また、芸人コースだと、あばれる君は最近芸人としての露出が減ってきた劇団ひとりのポジションを狙っていたのだという。
「キャラを付加するにしても、その人との相性がありますから、人材は多ければ多いほどいいわけです。売り出す際の基準で、コントや漫才の才能や技量の優先度が低いというのは事実です」(同)
すると彼らは、トーク力や構成力などの“地力”が育ちきらないまま表舞台に立つことになる。消費され、消えていく者がいるのはむしろ自然だ。4月に報じられたブルゾンちえみのパクリ疑惑も、こうした構造に起因すると語る。
「ブルゾンは『パクリというのか、インスピレーションというのか、感じ方は人それぞれ』などと言ってお茶を濁していますが、私の目から見ればあれはパクリの範疇。キャラに合わせたネタを作る力がないから、どこかから引用せざるを得なかったわけですよ。またこの問題は、彼女の周囲にいるマネージャーや講師の実力不足も露呈している。本当に芸人を育てる力があるなら、この程度の事態は未然に防げたはずです」(同)
テレビディレクターB氏は、ナベプロのキャラ芸人は「お笑い芸人でなく、お笑いタレント」と話す。芸人とタレントの線引きは曖昧だが、いわく「M-1グランプリやキングオブコントで優勝したナベプロ芸人が思い当たります? 芸人として頂点に立ちたい人間は、吉本か人力舎の養成所に行きますよ」。
では、ナベプロの養成所では、どんなことが行われているのか。かつて同養成所で学んだ放送作家のC氏は、入所当時のことをこう振り返る。
「ぼくの場合は、東京の養成所ならどこでも良かったので、とりあえず大手3社に資料請求をしました。印象的だったのは、最初に異常なほど褒められたことです。入所を考えている時期に資料請求をしたら電話がかかってきて、経歴や普段の生活の様子、将来の目標などを根堀り葉堀り聞かれて、その都度『お笑いに向いてますよ』『電話でこんなに面白い人は初めて』など絶賛された。その後、面接でネタを披露したのですが、それも無条件に褒めまくる。お笑いを目指そうなんて人間は自分に自信があるに決まってますから、その時点で『自分は天才だ』って勘違いしてしまうわけです。でも入所後、ほかの研修生に聞いたら、全員が同じように褒め殺しにされていた。ナベプロはそれほど人を集めたがっていたというわけです」
C氏が養成所に在籍した時期は10前後のコースがあり、入所者はコースごとに設定された学費をはらい、そこからひとつを選択する仕組みだった。授業は1日3~4コマで、ネタづくりや演技、ダンス、芸人としての精神論などを学んだ。
「同期は300人くらいいました。入所から3カ月目くらいにピンやコンビに分かれて一斉にネタ見せをする日があり、その出来によって良いほうからABCDの4ランクに分けられる。その後も定期的にネタ見せを行い、ランクの昇格と降格を繰り返して切磋琢磨していきます」
授業のクオリティ自体はほかのプロダクションと大差ないようだが、大きな違いが出るのはコース修了時だ。
「入所から1年すると卒業となるわけですが、ナベプロ本体のマネージャーから選ばれた者だけが、事務所に所属することになります。ぼくのときは300人・120組(ピン、コンビ含む)中、たったの15組でした。残りの100組あまりはクビ。これほどシビアなのはナベプロだけです。吉本はどんなに出来が悪くてもたいていはまず、事務所に所属させて育てていくし、人力舎は見習いという形で後々に所属できる可能性を残しますからね。そのため『ナベ難民』という言葉があり、多くの生徒が戦々恐々としていました」(同)
褒め殺して人を囲い、最終的にふるいにかける。人材を発掘するためには効率的な方法かもしれないが、ビジネスライク過ぎる印象を受ける。もちろん、この方法ではすくい取れない才能が出てくる。
「例えば現在フリーで活動している、たかまつなな。養成所の誰もが一目置く存在だったそうですが、マネージャーの目に留まらず、結局サンミュージックに入ってからテレビに出るようになりました。これをきっかけに、ナベプロ内でもひと悶着あったようで、以来卒業時の選定は慎重になったと聞きますが……」
あるテレビ制作関係者も、ナベプロのマネージャーの強権ぶりについて語る。
「普通、どこの事務所でもマネージャーと芸人の関係性はある程度対等なんですが、ナベプロはマネージャーが完全な上位という絶対的なヒエラルキーがあるそうです。舞台などでどんなに人気でも、マネージャーの覚えが悪ければクビになることがある。売れている芸人は、社長の自宅に呼んで食事を振る舞うなど家族のように扱う一方、売れない芸人はモノのように扱う姿勢は、こうした社風からもつながっているのかもしれません」
もうひとつ、ナベプロの歪みが垣間見える話がある。
「今ブレイクしているナベプロ芸人はピンが多いですが、これは同社がピン芸人を積極的に育てているため。理由は、ピンのほうが売りやすいからです。コンビは、何かと制約が多い。本来事務所としては、コンビはセットで売るのが道義です。しかし共演者からのNGや企画の都合で片方だけにオファーが来ることが少なくない。普通の事務所ならテレビ局側に頭を下げて相方も使ってもらう努力をするのですが、ナベプロは老舗という自負から、そういった営業をしない傾向にある。ある若いマネージャーが営業してコンビの仕事を取ってきた、と言ったら『ナベプロの看板が汚れる』と上司から怒られたそうですよ。だから現場としては、最初からそういったことがおこらないピンの育成に力を入れがち。コンビだからこそ力を発揮できる芸人もいるはずなのに、そうした芽を潰す行為です」(A氏)
横行する芸人の“忖度”誰のためのエンタメなのか?
とはいえ、話を聞いた業界関係者が共通して口にしたことがある。
「こうしたナベプロの経営方針は今のテレビ業界に極めてフィットしている」
そう、前出のB氏は語る。
「ナベプロのキャラ芸人は、非常に使いやすい。番組での使いどころや役割が明確だから、台本に入れるのも楽なんです。例えば、あばれる君を出せば、みんながムチャ振りをして、本人はスベってそれがオチになる。今の時代、テレビは冒険が難しいので、何をするかわからない人は出せませんからね。その点でキャラ芸人は制作の安全を担保してくれる“セーフティネット”のような存在なんです」
そしてこの認識は、プロダクションや制作現場だけでなく、芸人自身にも染み込んでいる。
「ナベプロは有望な人材にキャラを付加するといいましたが、ネタ自体は芸人が考えます。しかし芸人もキャラ芸のほうがブレイクしやすいことを知っていますから、一発屋に終わるリスクは承知の上で、キャッチフレーズで笑わせるネタばかり作るようになっている。キャラ芸が広告の仕事を得やすいのも呼び水です。宝くじのCMでブルゾンが『35億』と言っている姿なんて目に浮かぶようですし、サンシャイン池崎はサンシャイン60と実際にタイアップをしています。結果、キャラ芸人の需要と供給のサイクルは加速していく」(A氏)
官僚が政権の意向をくみ、政策等を立案する行為――「忖度」と近い構図がそこにある。テレビに出たい芸人、利益を出したいプロダクション、番組制作を円滑に行いたいテレビ局にとっては理想的な状況かもしれない。だが、割を食うのは視聴者だ。
お笑いファンを自任する、ある業界関係者の嘆きが耳に残った。
「ミュージシャンの甲本ヒロトが自殺を考えていた時、ダウンタウンの番組を見て生きる気力がわき、『日曜日よりの使者』を作った、という話は有名ですよね。お笑いって、人を生かす力があると思うんですよ。でも、今の粗製乱造される“芸人”さんたちにそれができるのかと思うと、暗澹とした気持ちになります」
この発言には賛否があるだろう。ブルゾンちえみやあばれる君を見て、生きる気力を抱く人もいるはずだ。だが、芸人をめぐる状況が、ダウンタウンなどが現役でコントを作っていた時代から大きく変わったことは確かだ。誰のためのエンターテインメントなのか。そこにかかわるすべての人間が、一度自問すべき時期に来ているのかもしれない。
(文/編集部)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事