まるでドラッグ……退廃的ムードを醸し出す『100万円の女たち』の中毒性
#テレビ東京 #テレビ裏ガイド #てれびのスキマ
夕食を食べ終えると、家に迷い込んだ猫の名前を決めようということになった。「たま」やら「漱石」やら案を出し合う、普通なら幸福感あふれるはずのシーンも、どこか不穏だ。常に緊張感が漂っている。
慎が何気なく女たちに子どもの頃の猫にまつわる思い出を訊こうとすると、「質問はしない約束でしょ」と一蹴される。
この共同生活には、いくつかのルールがあるのだ。
「女たちへの質問は禁止」
「女たちの部屋に入るのは禁止」
「夕食は全員一緒に食べる」
「女たちの世話は慎が全部やる」
「家賃は毎月100万円」
女たちはみな、「招待状」を受け取ってやってきたというが、もちろん慎が出したわけではない。誰が、どんな目的で彼女たちを集めたのかはまったくわからない。
彼女たちはなんらかの過去や秘密を抱えていそうだが、慎もまた壮絶なものを抱えている。
彼の書く小説には、人が死ぬシーンが出てこないという。なぜなら、彼の父親(リリー・フランキー)が、殺人犯だからだ。
「想像できる? 自分の父親が母親を殺しちゃうなんて」
父親は、自分の妻(つまり慎の母)とその不倫相手を殺害。さらに、駆けつけた警察官も殺害。死刑判決を受けているのだ。そのせいなのか、慎の自宅には繰り返し「死ね」「人殺し」などといったFAXが送られてくる。
こうしたサスペンス要素のほかに、このドラマの雰囲気を決定付けているのは、エロティックなムードだ。
そもそもがハーレム状態な上、慎は高級ソープランドに通っている。さらに第2話で、美波は慎の「価値観がぐるぐる揺れている」からいい小説が書けないのだと、秘密にしていた自分の職場へ慎を連れて行く。美波は、高級コールガールクラブのオーナーだったのだ。このクラブのコールガールには人気アイドルグループの一人が在籍しており、そのアイドルの値段は、なんと一晩1,000万円だという。
「質より人気という付加価値に弱い人間は、腐るほどいるの。特に、この国には」
こうした謎が謎を呼ぶサスペンスもののドラマは、その秘密を知りたいから次を見たくなる。だが、このドラマは、ちょっと違う。もちろんそうした意味で続きを見たいという欲求もあるにはあるが、それ以上に、なんだか中毒性があるのだ。
ドラマの画面から醸し出される強烈な退廃的ムードと緊張感を味わうと、理屈ではなく、またそれを味わいたくなる。
価値観がぐるぐる揺れる、麻薬のようなドラマなのだ。
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/)
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