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オワリカラ・タカハシヒョウリの「サイケデリックな偏愛文化探訪記!」

「昭和最大のミステリー」下山事件を読み解くブックガイド

 さてそれでは、コレ! と言える「他殺本」はどれか? 事件発生当時から取材を担当し、独自の調査で線路上の血痕などさまざまな「新事実」を見つけ出し、捜査本部にも食い込んでいた朝日新聞の記者・矢田喜美雄氏が執筆した『謀殺 下山事件』(1973年)だろう。映画にもなった本書には、とにかく新事実や新証言が多く登場し、「他殺派の急先鋒」として、さまざまな「下山本」に引用される機会も多い。本書を読めば、ほとんどの人が間違いなく「なるほど……これは他殺なんじゃないか」と考えるだろう。一読者としては、それくらい「他殺」という結論への導き方が、勢いと説得力に満ちているパワーのある本だ。だがしかし、問題点として挙げられるのが、その「新事実」を証言する「新証人」が、みーんな仮名だったりイニシャルだったりで、どこの誰だかわからないことだ。確かに昭和の闇に迫る危険な証言で匿名なのはわかるが、あまりにも都合よく、「この本にしか登場しない新証人」が多すぎないかい? という疑問は当然湧いてくる。「他殺」という結論に向かって走っていくためのパーツを、ムリヤリこしらえたような違和感は拭えない。これは多くの書籍で批判されている部分で、後に平成3部作といわれる「平成になってから出版された下山本」でもやり玉に挙がっている。

 その平成3部作の中では、『下山事件 最後の証言』(2005年)は読み逃せない一冊だろう。平成3部作はそれぞれ別の著者が書いているが、基本的にこれが「元ネタ」といってよい。本書は実にセンセーショナルだ。なんたって、著者・柴田哲孝氏の祖父が下山事件の実行犯として深く関わっていた!? という内容なのだ。その祖父が所属した実行犯グループと名指しされる「亜細亜産業」なる会社についての調査・考察が、「平成3部作」共通の大きなキモだ。さまざまな証人に会い、謎に迫っていく――という筋書きは、読み物としてめちゃくちゃ面白い。実行犯グループの写真なども多数掲載されていて、もうこれが正解ジャン、やばいジャン、他殺ジャン、と思うだろう。とにかく近年話題になった「下山本」の中で最もインパクトが大きく、「亜細亜産業関与説」は今ではスタンダードのひとつになっている。

「昭和最大のミステリー」下山事件を読み解くブックガイドの画像4旧ライカビル跡地。「亜細亜産業」が入っていたといわれるライカビルは、写真の正面のビルの右脇にあった。正面の旧日本貿易会館ビルは、地下通路で三越とつながっている。

 さて、ここまで読んで「あれ?」と思う人もいるかもしれない。「他殺派の本ばっかで、自殺派の本がないじゃん」と。そうなのだ。下山事件に関する本、いわゆる下山本で話題になるのは、ほとんどが「他殺本」だ。自殺派の本もあるにはあるが、まずそもそもの数が少ない。さらに、当然っちゃ当然なのだが、「下山事件は、謀殺事件だった! 新事実発見! 黒幕は…○○!」というセンセーショナルな切り口の本でなければ、ちっとも売れないし話題にもならない。そのため、「実はね~自殺だよ」という本はどうしても地味な扱いを受けて読まれる機会も少なく、早々と絶版になってしまうのだ。結果、世に出回るのは「他殺派」の本ばかり、という状況になる。実際、下山事件を少しかじったことのある人は、「果たして誰が? どの組織が黒幕か?」という部分において差異はあっても、ほとんどの人が「下山事件は他殺に決まってる」と考えているんじゃないだろうか。僕も実際、いろんな他殺派の本を読みあさっていた頃は、「これは絶対、謀殺だよな~」と考えていた。しかし、次に紹介する本を読んでから、「どうもおかしい」と考えだすようになった。「自殺派のバイブル」であり、「究極の下山本」、佐藤一著『下山事件全研究』(1976年)だ。

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