映画製作を禁じられた国際派監督のトンチ人生!! 車中から見えてくるイランの内情『人生タクシー』
#映画 #パンドラ映画館
パナヒ監督が古い友人に会うために車をちょっと離れた間に、見逃せないドラマが起きる。駐車された車の中から面白い題材はないか周囲の光景をスマホで撮影していたハナちゃんだが、そのスマホが最高の被写体を見つけた。新婚旅行にこれから出発しようとしている新婚カップルを友人が記念撮影していたのだが、その友人がポケットに入れていた財布を路上に落としてしまう。財布が落ちたことに気づいたのは、スマホを回していたハナちゃんと近くのゴミ箱を漁っていたホームレス風の男の子の2人だけ。財布をネコババしようとする男の子に向かって、ハナちゃんは持ち主に返すようにと呼び止める。ドキュメンタリー映画を撮影していた監督が被写体に向かってリテイクを、そして演技を求めた瞬間である。「財布をネコババすれば犯罪者だけど、返せばあなたはヒーローになれるわ」と男の子を懸命に説得しようとするハナちゃん。ヒーローになるか、犯罪に手を染めるかで心が揺れる男の子。このときハナちゃんは、カメラを通して人の心を撮るという行為は、監督自身の心も真っ裸になってしまうということを学ぶ。パナヒ監督が目を離していた数分の間に、ハナちゃんは映画監督として急激に成長を遂げていく。
パナヒ監督の作品において、どこまでが無作為でどこからが作為であるかのボーダーを引くことはあまり意味がない。パナヒ監督は作為と無作為の向こう側にある真実をカメラに収めようとしている。作為と無作為は、イラン社会の建前と本音に言い換えることもできる。イランの社会体制と体制寄りのイラン映画界を揶揄した本作はイランでは上映できないし、パナヒ監督だけでなく本作に登場した人たちまで当局に睨まれる恐れがある。イランでの映画づくりは本当に命がけだ。それでもパナヒ監督はそんな母国イランで、映画らしくない映画をこれからも撮り続けるに違いない。人生いろいろ、映画もいろいろ。パナヒ監督のユーモアとアイロニーがテヘランの路上に咲き乱れる。
(文=長野辰次)
『人生タクシー』
監督・出演/ジャファル・パナヒ
配給/シンカ 4月15日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c)2015 Jafar Panahi Productions
http://jinsei-taxi.jp
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