『山田孝之のカンヌ映画祭』第9話 通底する山田孝之の“強靭な覚悟”と、芦田愛菜の“奇妙なひと夏”
#ドラマ #テレビ東京 #芦田愛菜 #山田孝之 #どらまっ子 #山田孝之のカンヌ映画祭
■リハーサル1回目
らいせ(芦田)と木(村上)の会話。両手を枝のように広げ、何本もの木を演じる村上。
「その木たちは、全員らいせの味方なんじゃ~」
山下が途中、BGMをイメージして、「ブップップ、ブップップ……」と下手くそなボイスパーカッションらしきものをかぶせる。一見、学芸会のようだが、こういうもんだと言われたら納得してしまうかもしれない。
■リハーサル2回目
プロット(おおまかなあらすじ)の言葉を元に、歌ってみようと芦田が提案。ここで驚いたのが、芦田の歌が上手いということだ。カラオケ的なうまさではなく、歌詞にメロディをつけて表現する才能というか、芦田の地肩の強さが垣間見える。
映画のプロットを元に「あたしーはママに捨てられてー 地面に寝ていて気付いたのー」と、その場でメロディをつけて歌い上げていくのだが、まるで藤圭子の「夢は夜ひらく」の出だしのようで、雰囲気に驚かされる。改めて底が見えない女優・芦田愛菜。芦田がどんなものでも即興でミュージカル風に歌い上げる深夜ラジオのコーナーがあったら、聞いてみたいものだ。
しかし、「俺はいいなーと思った」と村上芦田を褒める山下に対し、山田の表情は硬い。
■村上淳、「クビ」になる
休憩中、メジャーと同じような作品ばかりの日本のインディー映画制作を危惧したり、バンクーバー・カンヌ・ベルリンと各映画祭に行かせてもらったがカンヌ(河瀬直美監督作品にて参加)を「映画祭のチャンピオン」だと強く感じたと熱く語る村上は、首のアザが痛むことを「プロデューサー(山田)に言わないで」と気遣う優しさも忘れない。
そんなナイスガイ村上に対し、山田は「ハッキリ言うと、歌唱力がちょっときつい」という理由で、あっさり降板してもらうことを決める。つまりクビだ。
父親役としてアザができるほど首吊り特訓させられる→披露することなく急遽「木」にされて変な歌を歌わされる→下手だからクビ。怒ってもいいと感じた。
そんな惨劇もつゆ知らず、外の公園でブランコに乗りながら「シェパードは本当に頭がいい」という犬トークで盛り上がる芦田と、渦中の人・村上。首・木・クビのコンボが炸裂しているのに。
村上が降板を告げられたシーンこそなかったものの、またあの「狐につままれたムラジュン」の顔をしたのだろうか? と不謹慎な期待をしてしまうのは、きっとこの番組に麻痺しているからだろう。
しかし、毎回驚くのは山田の覚悟だ。ふざけるにしても、意固地になるにしても、演じてできる範囲を超えた、誤解されることなど微塵も恐れていない、見世物に生きる者の、生き様としての覚悟を強く感じる。この番組を最も生々しく感じさせる理由ではないだろうか。ちなみに芦田はラブラドールレトリバーも「結構好き」とのこと。
■ナパーム弾を使おうとする山田
後日、食事会を兼ねた打ち合わせ。絵コンテ的な絵を描いてくれていた奇才の漫画家・長尾謙一郎からクライマックスをイメージした残りの絵が届く。「炎に包まれ燃えさかる北沢(母親の愛人)」、そして「大爆破され、燃え上がる森林」の2枚。予算や仕込みの時間の問題から、森を燃やすのは難しいと山下らスタッフは懸念するが、山田はどこ吹く風。
「ナパームで考えたらー」などと、日本への爆撃やベトナム戦争で実際に使われた油脂焼夷弾を用いる構想を口にする。芦田の安全のため反対されるが「そんなの、みんな役者やってますから」と譲らない山田。ドルフ・ラングレンあたりを基準にしているのだろうか。
さらに山田は、芦田演じる主人公らいせを、より錯乱状態にするために「でかい蜂に刺されるとか、蛇に噛まれるとか」と、『たけしのお笑いウルトラクイズ』のような方向性を口にする。
「いや、試しますよ、もちろん? 蛇でいくとなっても、いきなり噛ませないですよ?」と、真剣なフォローを入れるが、そこじゃない。さすがの芦田も「なるべく応えたいとは思ってるんですけどー……」と、ギスらない程度に抵抗を見せる。毎回言ってるが、本当に受験合格おめでとうと言いたい。これで不合格だったら、受け取る意味合いが変わってくる。
ここで山下が、プロットと絵を元に脚本家に書いてもらった「台本」を山田に提示する。この番組内で、山田に対し独断で動く山下は初めてだが、山田は「結局同じやり方じゃないですか? (台)本、もとに映画作っちゃうと」「俺は見ないっすよ」と、あっさり拒否、一人退席してしまう。気まずそうな芦田。
後日、芦田(12)が山下(40)を神社に呼び出す。どんどん同級生のようになっていく2人。
山田の暴走を、芦田は懸念しているようだ。
「山田さんがどんどん一人先に進んでいっちゃうと、きっとスタッフの皆さんも気持ちはついて行きたいって思ってるのに、どうしたらいいんだろうって、すごく困ってらっしゃると思うので、そうなっちゃうといい作品は作れないんじゃないかな……」
最後、肝心なところを近所を走る電車の通過音で聞き逃す山下。
「いい作品はー、作れないんじゃないかとおー」
「あ『作れない』ね?」
2人しておみくじで大吉を引いて、「大吉しか出ないんじゃ」とケタケタ笑う芦田。なにげないカットだが、この番組はむちゃくちゃなことを見せておきながら、こういう「日常」の差し込み方が見事で、本当に単館系の映画のよう。番組自体の監督を務める山下と松江哲明だからこそ出せるバランスだろう。
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