もののけと肉体関係を結ぶという至高の背徳感! 小泉八雲の世界を実写化した官能ホラー『雪女』
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異界の美女と人間との異類婚を描いた『雪女』だが、夫婦となってから穏やかな時間が流れていく本作を観ているうちに、この物語の主人公であるユキと巳之吉は、八雲と節子自身であることに気づかされる。世界各地を流浪した後、米国に渡りジャーナリストとなった八雲は、初めて訪れた日本をすっかり気に入り、士族の娘だった節子を嫁にもらう。やがて八雲は東大の英語講師を務め、3男1女に恵まれることになる。『蝶々夫人』で描かれているように当時の欧米人は日本で仮りそめの妻を持つことが多く、八雲も当初はおとなしい日本人の女性を愛人として迎え入れるつもりだった。ところが節子はしっかり者で、彼女に仕切られた形での結婚生活を八雲は送ることになる。目論み通りではなかったものの、両親の愛を知らずにずっと流れ者の人生を歩んできた八雲にとって、節子との慎ましい生活は安らぎを覚えるものだった。正体不明の女・ユキもまた、純朴で口の堅い巳之吉との暮らしに心地よさを感じていた。
優香との新婚生活を送る青木崇高を共演に迎えた『雪女』を、主演女優と兼任する形で撮り上げたのは“インディーズ映画のミューズ”と呼ばれる杉野希妃監督。1984年生まれの杉野希妃は女優業だけでは満足できず、香港ロケを行なった国際色豊かな『マジック&ロス』(10)、3.11をいち早くドラマ化した『おだやかな日常』(12)、ナント三大陸映画祭グランプリ受賞作『ほとりの朔子』(14)、誘拐監禁&少年愛を扱った『禁忌』(14)など数々の作品のプロデューサーを兼任してきた。作品のためなら脱ぐことも厭わない肝の座った美人女優だ。『欲動』(14)、『マンガ肉と僕』(16)に続く監督作となる『雪女』は、監督である杉野自身が青木と濃厚な濡れ場を演じてみせた官能ホラー、もしくは夫婦間ミステリーとしての味わいがある。
溝口健二の『雨月物語』(53)や小津安二郎の『浮草』(59)といった日本映画黄金期の作品を杉野監督は愛していることから、『雪女』にも1950年代っぽいクラシカルな雰囲気が漂う。だがその一方では、移民問題や他民族に対するヘイトスピーチといった寛容さを失いつつある現代社会の歪みを狭い山村に投影させたものにもなっている。2月23日、外国特派員クラブでの記者会見に杉野監督は共演の青木崇史と共に登壇し、素性の知れない相手との結婚生活を描いた本作についてこう語った。
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