スポンサータブー? メディア側の過剰な自粛? 多国籍企業を告発した映画の公開に垂れ込む暗雲
#映画
スポンサータブーに抵触するのか、それともメディア側の過剰な自粛(萎縮)なのか。国際的な評価を得ている名監督の力作が日本での劇場公開を控え、宣伝活動に悩まされている。ボスニア紛争を題材にした『ノー・マンズ・ランド』(01)などで知られるダニス・タノヴィッチ監督が2014年に完成させた『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』がその問題の渦中にある作品だ。大手グローバル企業がパキスタンで粉ミルクを販売したところ、不衛生な水で溶いた粉ミルクを飲んだ乳幼児たちが次々と死亡しているという実話を題材にした社会派ドラマ。予告編やチラシなどには企業名は出ていないが、映画本編を観るとモデルとなっている大手グローバル企業がどこか分かるため、乳製品や食品関係のCMが多いテレビやラジオでは『汚れたミルク』が紹介されないという事態となっている。
パキスタンを舞台にした『汚れたミルク』の主人公は、超有名グローバル企業に勤めることになったひとりのセールスマン。1994年、国産の医薬品を地道にセールスしていたアヤン(イムラン・ハシュミ)だったが、妻ザイナブ(ギータンジャリ)に勧められて世界的に有名な大企業への転職に成功する。アヤンは上司の指示に従い、病院の医者たちからお墨付きをもらう形で粉ミルクの営業に尽力する。医者や看護士への贈り物を欠かさないアヤンは病院で気に入られ、粉ミルクは飛ぶように売れていく。大企業に就職でき、経済的にも豊かになり、子宝にも恵まれたアヤン一家は幸せいっぱいだった。ところが1997年、アヤンは自分が売った粉ミルクが招いた惨状を知ることになる。スラム街で暮らす貧民層の母親たちは水道設備の整っていない不衛生な環境で粉ミルクを作り、赤ちゃんに飲ませていた。母乳で育った赤ちゃんに比べ、粉ミルクで育った赤ちゃんには免疫力がなく、痩せ細って次々と死んでいく。衝撃を受けたアヤンは職場を辞め、ドイツのテレビ局でこの問題を訴えようとする。番組が放送されれば、アヤンは英雄として帰国できるはずだったが──。
映画の中では「ラスタ社」と仮名が使われているが、じっくりと本作を観ると粉ミルクを販売している多国籍企業は「ネスレ社」だと分かる。スイスに本社を置く「ネスレ社」は時価総額約26兆円(「週刊ダイヤモンド」2016年10月1日号)という世界屈指の巨大食品会社。インスタントコーヒーのネスカフェ、チョコレート菓子のキットカット、麦芽飲料のミロ、ペットフードのモンプチなど日本でもおなじみの商品が多い。それゆえパキスタンで起きた問題ながら、日本のテレビやラジオは『汚れたミルク』を取り上げることに難色を示しているという。本作を世界に先駆けて買い付けた配給会社ビターズ・エンドの宣伝担当者に内情を聞いた。
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