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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.415

ぼくらはみんな『アイヒマンの後継者』だった!? 平凡な市民の残酷さを明るみにした不快な実験結果

ぼくらはみんな『アイヒマンの後継者』だった!? 平凡な市民の残酷さを明るみにした不快な実験結果の画像3電気技師である被験者(アントン・イェルチン)は「この実験には協力できない」と途中退席する。彼は意思を持つ少数派のひとりだった。

 人間という動物は社会性を重んじるあまり、簡単に主体性を失ってしまうことをミルグラム博士は解き明かした。批判を浴びながらも、博士はその後もユニークな実験を続けることになる。「スモールワールド現象」も「アイヒマン実験」と並ぶ博士の業績だ。自分とは面識のない人物宛ての手紙を知り合いに「知っている人、もしくは知っていそうな人に渡して」と頼むと、平均して6人を介して、目的の人物に手紙を転送できるというもの。世間は思ったよりも狭く、人と人とはいろんな形で繋がり合っていることを博士は検証してみせた。“六次の隔たり”と呼ばれるこの実験結果を前提に、多くのSNSは構築されている。「人生とは後ろ向きに理解して、前向きに生きるもの」という哲学者キルケゴールの言葉が劇中に何度か引用されるが、ミルグラム博士の人生はまさにキルケゴールの言葉どおりのものだった。奇妙な実験で名を馳せた博士は名門ハーバード大学の教壇に立つようになるが、ハーバード大学で教授職に就くことは叶わなかった。講演で世界各地を飛び回る中、51歳の若さで亡くなった。ジョージ・オーウェルが管理社会の恐怖を描いたSF小説『1984』の時代設定となっていた1984年のことだった。

 ミルグラム博士がスクリーンから観客に向かって語り掛けてくる形で物語は進んでいく。時折、博士の後ろにゾウが現われる。かなりシュールな演出だが、これは“部屋の中のゾウ(the elephant of the room)”という英語のことわざに由来したもの。人間は自分が見たいと思うものしか見ようとせず、部屋の中に大きなゾウがいても平気で気づかないふりをする。ミルグラム博士が突き付けた実験結果を、あなたはどう受け止めるだろうか。
(文=長野辰次)

ぼくらはみんな『アイヒマンの後継者』だった!? 平凡な市民の残酷さを明るみにした不快な実験結果の画像4

『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』
監督・脚本/マイケル・アルメレイダ
出演/ピーター・サースガード、ウィノナ・ライダー、ジム・ガフィン、アントン・イェルチン、ジョン・レグイザモ
配給/アット エンタテインメント 2月25日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C)2014 Experimenter Productions, LLC. All rights reserved.
http://next-eichmann.com

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