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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > リリスク「韻」と足跡
MC内郷丸「現代アイドルソング学概論」第4回

現体制活動終了! “アイドルラップの先駆者”lyrical school「韻」で辿る彼女たちの足跡

 ここで、lyrical schoolの歌詞の特徴と比較するために、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)などに出ているような、バトルMCたちはどのような言葉で韻を踏んでいるか見てみよう。

 たとえば、MCニガリとIcereyのバトル。一回で決着がつかず延長戦となったこの試合では、先攻のIcereyが“なっちまったぜ延長戦 延長の強さは川崎(Icereyの地元)の伝統芸”とラップ。「延長戦」と「伝統芸」で韻を踏んでいる。対するMCニガリは“延長戦から伝統芸 ネタ臭いライムマジで便所くせえ”とラップ。相手の踏んだ韻に対してさらに「便所くせえ」という言葉で韻を踏み返している。さらにIcerayは“俺はヒップホップ界のベートーベン”と、「ベートーベン」という言葉で韻を踏み返している。

 MCニガリとT-Pablowの延長戦では、MCニガリが“目と目を合わせた結果 何ができるのか”とラップしたのに対し、T-Pablowが“合わせようか目と目 とってやるスキルのレントゲン 理想の扉ノックしても返答ねえ この日のために負けた戦極、罵倒、KOK”とラップ。相手の「目と目」という言葉から、「レントゲン」「返答ねえ」「KOK」という言葉を使って韻を踏んでいく。ちなみに「KOK」とは「King Of Kings」というMCバトルの大会の一つ。T-Pablowは実際にKOKの東日本予選で敗れており、彼だからこそ踏める韻に会場も大きいに盛り上がった。

 ここまでで紹介したバトルMCが韻を踏むために使った言葉をざっと並べてみよう。「延長戦」「伝統芸」「便所くせえ」「ベートーベン」「目と目」「レントゲン」「返答ねえ」「KOK」。ざっと見ただけでも、相手を批判したり、自分を偉く見せたり(「ベートーベン」がその最たる例だ)するための言葉選びをしていることがわかる。また、MCバトルの大会の名前が出てくるのも、バトルMCならではの言葉選びだなと思う。ここまでの言葉はすべて母音が「え・え・お・え・え」に近いものだけを選んでいる。

 ではこれらの言葉に近いもので、lyrical schoolが韻を踏むとどうなるか。最新アルバムのなかの一曲「マジックアワー」の歌詞を引用してみよう。

「マジックアワー」(YouTubeより)

“迷った目と目と手と手 自分勝手のデートは迷路です”

 先のT-Pablowが使っていた「目と目」という言葉が入っているが、これに対して、デートでの男女の一瞬のすれ違いを描くために「手と手」「迷路です」といった言葉を使って韻を踏んでいる。相手をディスり、勝ち上がるためだけでなく、恋愛を描くために韻を踏むと、これだけ使う言葉が変わるのである。

 別の曲を見てみよう。上記と似たような母音の言葉を使って韻を踏んでいる曲がある。うまくいかない恋路に悩む女の子の気持ちを歌った「ひとりぼっちのラビリンス」という曲の一節である。

「ひとりぼっちのラビリンス」(YouTubeより)

“結局この距離は平行線 出口の見つからない迷路で 思い描く君との成功例 行きたかった素敵なデートへ”

“ドラマみたいな恋はエンドレス 思い通りできない劣等生 の私はおとなしくベッドへ”

 一つ目の引用は一番の歌詞、二つ目の引用は二番の歌詞だが、語尾の言葉「平行線」「迷路で」「成功例」「デートへ」「エンドレス」「劣等生」「ベッドへ」はすべて先に挙げたバトルMCたちが使った言葉のどれでも韻を踏める。形式的には母音が「え・え・お・え・え」に近い言葉で韻を踏むということで、lyrical schoolもバトルMCたちもやっていることは同じだが、ラップから描き出される情景はむしろ正反対というのが面白い。

 ちなみに「ひとりぼっちのラビリンス」が収録されているのは先の「P.S.」同様『date course』で、アルバム全体を通して気分良く出かけ、恋をし、恋を悩み、また日常に戻っていくという感情の流れを見事に描いている。アイドルがラブソングを歌うというのはよくある話だが、一貫して「デート」にフォーカスしたシティボーイ、シティガール的な感性を表現していたというのは、lyrical schoolを混沌としたアイドルシーンにあってもも埋もれることなくここまでこれた一つの要因だったのではないだろうか。

 そのクリエイティビティが話題となった「RUN and RUN」のMVのような視覚的表現だけでなく、韻を踏むための言葉選びという細部にもこだわった一貫した世界観を表現し続けてきたlyrical school。いままでも何度かメンバーの入れ替わりはあるにはあったが、それらを生み出してきた現体制は、2月26日で終了してしまう。これからのlyrical schoolもまた、いままでのような一貫した世界観を表現し続けるのか、それとも何かが大きく変わるのか。最後のライブと今後の活動に、注目だ。
(文=MC内郷丸)

Twitterアカウントは@bfffffffragile

MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru

最終更新:2017/03/14 12:03
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