深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.413
日本は格差社会ではなく、すでに階級社会だった!? 『愚行録』が暴くこの国の見えないヒエラルヒー
2017/02/11 21:00
#映画 #パンドラ映画館
事件を追う田中にとって、気がかりな存在である妹の光子(満島ひかり)。兄妹とも、家族に関しては苦い思い出しかなかった。
人間のドロドロした嫌な部分を描きながらも、本作を魅力的なエンターテイメント作品に押し上げている要因に、端正なカメラワークと湿度の低い映像も挙げられる。石川監督がポーランド国立映画大学に留学した際、撮影科にいた同期生のポーランド人ピオトル・ニエミイスキを日本に招き、撮影監督を任せている。石川監督によると、日本とポーランドは1本あたりの映画製作の予算規模が似ており、ピオトルの異文化に対するオープンな性格もあって、限られたスケジュールの中でもスムーズに撮影が進んだとのこと。日本の知られざるヒエラルヒー社会を、異邦人の乾いた目線で見つめるような冷ややかな味わいが本作にはある。
原作では慶應大学となっていた大学名は、映画では文應大学となっているが、多分どのキャンパスにも夏原友季恵によく似た女性がいたはずだ。とても美しい上に頭もキレ、彼女が現われただけでパッと場が明るくなる。多くの人の目には社交的な性格に映るが、でもごく自然に自分の周囲にいる人間をコマのように扱うことに優れている無慈悲な女王さま。それが夏原友季恵という女だ。愚かなことに、男たちはそんな女王さまに尽くすことに喜びを感じてしまう。人間はどうしようもなく愚かな生き物であることを、『愚行録』は思い出させてくれる。
(文=長野辰次)
『愚行録』
原作/貫井徳郎 脚本/向井康介 監督・編集/石川慶
出演/妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満
配給/ワーナー・ブラザーズ映画、オフィス北野
2月18日(土)より全国ロードショー
(c)2017「愚行録」製作委員会
http://gukoroku.jp
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