「名古屋闇サイト殺人事件」ハンマーで40回殴打されながらも被害者が守り抜いたものとは?
#本 #凶悪犯罪の真相
「ブランド品とか持っていなくて、黒髪で、あんまり派手じゃない地味系のOLだったら、たくさん貯金しているだろうから」というもくろみで、名古屋市内をぐるぐると移動しながら ターゲットを物色。磯谷利恵さんの外見は、まさに彼らが考えてたものと一致した。155センチと小柄な彼女の体格は、180センチの堀に押さえつけられるとひとたまりもなく、車の中に引きずり込まれた。
車内で手錠をはめられ、包丁を突きつけられ、恐怖のどん底に突き落とされた利恵さん。しかし、彼女は、犯人たちに臆することもなく、気丈に振る舞った。母親に家を買うために貯めていた800万円以上の預金が入ったキャッシュカードを奪われても、決して正しい暗証番号を伝えることはない。頭をハンマーで殴られ、血が飛び散りながらも、利恵さんは「ねえ、お願い、話を聞いて」「殺さないって約束したじゃない」「お願いします。殺さないで」と犯人を説得しようとした。彼女は、母親に女手一つで育てられた。もしかしたら、その脳裏には、ひとり残される母親のためにも、死ぬわけにはいかないという強い思いがあったのかもしれない。しかし、そんな希望は、無残にも振り下ろされるハンマーによって打ち砕かれた。
翌日、犯人グループのひとり、川岸の自首によって、事件は明らかになった。
被害者の母、富美子さんは、事件後、加害者の死刑を求める署名活動を行い、その数は33万人にまで膨れ上がった。この署名は結果として判決に反映されることはなかったが 、神田・堀両被告に対して被害者がひとりの事件としては異例の死刑判決が言い渡される結果を勝ち取った(堀は、上告で無期懲役の判決となるも、余罪が判明し、死刑判決が下された)。
闇サイトで集った男たちによる、無計画な犯行の犠牲となった磯谷利恵さん。あまりにも短絡的な犯行によるその死を追っていくと、怒りや悲しみといったありきたり体の言葉ではとうてい表現できないような強い感情に襲われる。しかし、大崎が注目するのは、そんな卑劣な犯人たちを前に堂々と自分を保ち続けた利恵さんの勇気だった。
「凍りつくような恐怖の中で、 それでも利恵は最後まで自分を保ち続けた。どんなに痛かっただろう、どんなに苦しかっただろう、どんなに怖かっただろう。しかし孤絶する状況の中で、死の恐怖に向かい、 理恵はひとりで戦い抜いた。凍りつくような絶体絶命の状況で、取り乱すこともなく、また絶望することもなかった。敢然と立ち向かい、ひたすら耐え抜いた。その知性と勇気を“誇り”に思い、また“感謝”する」
死の淵に立っても、利恵さんは暴力に屈しなかった。大崎は、その毅然とした態度を後世にまで書き残そうとしている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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