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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『山田孝之のカンヌ映画祭』第3話

『山田孝之のカンヌ映画祭』第3話 “あざとさ/痛さ”をコメディたらしめる地上波なりの着地点

 お母さんによって殺されかけ、森の中で目を覚ました芦田、その後ろには首を吊った父親がゆっくりと風に揺れている。戻りゆく意識を辿るかのように、「うおおおおおーーー!!!」と天に向かい咆哮する芦田。『プラトーン』(1986)のウイレム・デフォーのように。ほんの3分ないショートフィルムだ。

 タイトルは『穢の森/La forêt de l’impureté』。

 やたらとテロップにフランス語を多用し、バリバリにカンヌを意識した作り。

 しかも『穢の森』とは、前回「カンヌに近い監督」として名前の挙がった山下とも因縁のある河瀬直美のカンヌ審査員特別大賞(グランプリ)を受賞した『殯の森』(2007)に酷似していることがわかる。

 山下が以前撮ったフェイクドキュメント作品の『道』(05)で、河瀬がモデルと思われる「痛い監督」を描いているのだが、やはり今回のこの番組の企画自体、それが元ネタなのではないのだろうか。

 そして唐突に、このパイロット版を公開したイベント会場にカメラは移る。

 映画評論家でお馴染み有村昆の「バカデミーシネマラボ」というトークイベントらしい。

 このパイロットフィルムの反応を見るために山田自ら持ち込んだようだが、肝心のその反応は、「以上です」と山田が言わないと、いるはずの観客から拍手も起きなかったし、思わず「以上なんですか?」と有村昆に言われる始末。自分もそうだし、観客もとまどっていると代弁する有村は、さらにこの映画を今後どうしていきたいのかと問う。

「カンヌを目指す」とはっきり言い切る山田に、タイトルの出方とかそれっぽいとか芦田に驚かされたといいつつも、慎重に言葉を選び、コメントしづらそうな他の出演者(同じサンミュージックの芸人・藤井ペイジら)たち。

 しかし、イベントの主催者である有村はいう。

 ほとんどの山田の作品は拝見させてもらっているが、「カンヌを獲るために今の日本映画じゃないことをやろう」としていると。「親殺し」から一番遠い芦田愛菜のキャスティングを「あざとい」と言い切り、真っ向から「コンセプトが見えちゃう」と指摘する。

 多くの人が感じたが口ごもったかもしれない感想を、責任感からなのか、しっかりと口にする有村。「あざとさ」が出るのはもったいないとフォローしつつも本質をついた発言だろう。

 なおも有村は、「山田がやりたいことをやった方が」いい。(カンヌに)「寄せて、寄せて」というのは「方法論として逆なんじゃないか」と続ける。

 それに対し、「みんな寄せていってる」「あざとくてもいいと思う」と、一歩も譲らない山田。

 そのシーンはなかったが、突然登場したビッグゲストにおそらく観客は歓喜しただろう。スター登場以外に、そのスターの製作中の新作映画の一部まで観せてくれるというのだ。

 なのに、その作品がまったくピンと来ないばかりか、まさかこんな気まずいやりとりを見せつけられてしまうとは。

 当日、有村やイベント側以外に山田の出演をツイートしている観客がいないように見えるのは、何かしらの「配慮」があったからかもしれないが、少なくともこの番組がオンエアされるまで、その場にいた観客は、我々のような今回初めて観た視聴者以上に気持ちが悪かったはずだ。

 エンディング。「スカート」の曲に乗せて、事務所でひたすら楽しそうに一輪車に乗る芦田と、それをソファーから見つめるサングラスの山田のカットは、まさに「カンヌに寄せた」「あざとい」映像に感じた。

 有村に批判されたとき、山田は何を感じたのか。どう思って「反論」を口にしたのか。罠にかかった獲物を喜ぶ表情を、こっそり噛み殺していたのではないのか。

 次回「第4話 山田孝之 金を集める」の予告で、いかがわしそうな長髪の社長らしき人物に頭をさげて名刺を受け取る芦田愛菜は、『明日、ママがいない』のようでもあり、『闇金ウシジマくん』のようでもあった。

 知らないうちに、映画作りの段取りを学び、同時に、日本映画の問題点を考えさせられてしまうこのこの番組。松江のTwitterによると、まだまだ何悶着もあるらしいというから目が離せない。
(文=柿田太郎)

最終更新:2017/03/23 16:31
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