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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 「障害者殺し」前触れにすぎない?
事件から半年……

相模原障害者殺人事件は前触れにすぎない? 植松容疑者の「思想」はなぜ、共感を呼んだのか

「青年(編注:植松容疑者)の精神が、この国をじわじわと侵食してきた近年のヘイト的なものの空気を確実に吸い込んできた、(中略)彼の言葉はヘイトスピーチ的なものを醸成してきたこの国の『空気』をどう考えても深く吸い込んできたのであり、その意味でこれはヘイトクライム(差別的な憎悪に基づく犯罪)なのである」

 もちろん、現在では優生思想はタブー視されている。しかし、一部の人々がシンパシーを感じてしまうように、それを乗り越えることは簡単なことではない。杉田も、自身の経験から、自分の中にある「内なる優生思想」に対する迷いを、以下のエピソードとともに記述している。

 超未熟児として生まれた杉田の息子は、平均的な身長に追いついていないため、成長ホルモンの注射を打っている。保育園でほかの子どもから「なんで小さいの?」と言われ、母親に泣きつく子どもと、ほかの子どもたちとの体格や運動能力の差が目につくようになる。「男の子の場合、背の低さ、身体の小ささが大きなデメリットになるはずだ、そういう功利計算が親である僕らには働いた」と語る杉田。彼自身も、内なる優生思想に対して解決のめどがついていないことを告白する。

 一方の立岩は、かつて日本で起こった障害者殺害事件を丹念に掘り返し、この事件を精神医療の問題とすべきではない、と主張。さらに、この事件を取り巻く社会について、社会学の言葉でドライに記述していく。杉田と立岩の思考も、必ずしも一致しているわけではない。本書の中で、2人は安易な「正解」には決して飛びつかず、回りくどくても本当の意味でこの事件の真実に迫る道を探しているようだ。

 本書に収録されている立岩との対談の中で、杉田は「悪い方に考えすぎだ、と笑われるかもしれませんが」と前置きしながらこう語る。

「今回の事件はまだ入口にすぎない気がするんです。あれが最悪という感じが少しもしない。これからもっとひどいことが起こる前兆であり、前触れという気がする」

 今後の裁判では、次々と新たな事実が明らかにされていくことだろう。杉田の予言めいた言葉が現実のものとならぬよう、この事件については、さまざまな側面から議論がなされなければならない。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2017/01/26 18:00
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