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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 北朝鮮は“トゥルーマン・ショー”国家
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.409

北朝鮮は“トゥルーマン・ショー”国家だった!? 演出だらけの日常生活『太陽の下で 真実の北朝鮮』

taiyouno-shitade02ジンミちゃん一家が暮らしているマンション。窓から主体思想塔が眺められる平壌で最高級の物件だ。

 両親の職業が北朝鮮当局の都合で変えられてしまうわけだから、まともなドキュメンタリーになるはずもなかった。ジンミちゃんのお父さんは自分の勤務先となった工場に赴き、そこで働いている女性労働者に何を作っている工場なのかを尋ねている様子もカメラは収めている。ジンミちゃん一家は広々としたこぎれいなマンションで暮らしているが、これも撮影用に用意されたものだった。

マンスキー監督「家族がこのマンションで暮らしていないことは明白でした。戸棚をこっそり開けてみると、食器がひとつも置いてありません。バスルームを覗くと、歯ブラシが1本もない状態でした。生活感がまるでないマンションで、撮影用のものだなと、すぐに気づきました。ジンミとあの父親、母親は確かに遺伝子的には家族なのかもしれません。でも、本当の家族と言えるのか、私は疑問に感じます。撮影期間中、ジンミ以外の家族に出会ったのは1日だけでした。金日成の誕生日を祝う祝日で、その日だけは家族が集まって、金日成・金正日親子の記念碑の前で家族写真を撮っていたんです。写真を撮っているときの家族たちがどんな表情をしているかを、じっくりご覧になってください。これは私の推測ですが、多くの家族は普段はバラバラに暮らしているようでした。父親は軍隊の兵舎、母親は工場のプレハブ小屋、子どもは学校の寮で暮らしているようです。工場の生産性や勉強をはかどらせるためなのかもしれませんが、私にはなぜそこまでやるのか理解できません。休み時間、校庭で遊んでいる子どもを見ることもありませんでした。ロシアから来た監督のドキュメンタリーの撮影のため、撮影期間中だけ幸せな家族を演じさせる。これは二重の意味での国家による暴力ではないでしょうか」

“在日二世”である梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督のドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』(06)では家族向けのプレイベートビデオの中に、梁監督の兄たち一家が暮らす平壌のリアルな現状が映し出され、そのことから梁監督は北朝鮮へは入国禁止処分となった。マンスキー監督も盗み撮りしていることがバレたら、いちばん軽くて国外退去処分、最悪身の危険も覚悟したらしい。そんなリスクを冒して撮影した映像には北朝鮮側の監督が演出する姿が度々入り込んでいるが、ジンミちゃんが北朝鮮少年団に入団するくだりは現実のもの。少年団に入れる子どもはごく少数で、ジンミちゃんはエリートコースをこれから歩もうとしていることが分かる。入団式で赤いマフラーとバッジを渡され、うれしそうなジンミちゃん。その後、全身勲章だらけの偉い老将軍が入団のお祝いの言葉を述べるが、朝鮮戦争で米軍機を撃墜した自慢話を延々と続けるので、子どもたちは睡魔に負けないように懸命に堪えている仕草が何ともいじらしい(子どもたちにしてみれば命懸け)。また、金日成の誕生日を祝う“太陽節”で披露する踊りをジンミちゃんは学び始めるが、舞踏の先生が厳しすぎ(というか性格がすごく陰険)、ジンミちゃんは多分人生初の挫折を味わい、涙を流すシーンも撮られている。嘘だらけのドキュメンタリーの中に、いくつかの真実が浮かび上がる。

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