考えるな、感じろ――「デヴィッド・ボウイ」という宇宙をめぐる探検
#オワリカラ #偏愛文化探訪記
■アイコンと化した衣装たちと、ボウイが外部に求めた刺激
すべてが並列に扱われている『DAVID BOWIE is』展において、「注目すべき展示」というのは選びづらい。しかし、ボウイ入門者に向けてオススメする視点で、いくつかピックアップしてみようと思う。
まずは、それぞれがアイコンと化した衣装たちだろう。
ボウイは基本的に1つのツアーを1つの衣装で回りきることが多く、ジャケット写真などで着ている衣装と合わせて、各時期の作品世界を象徴する衣装が無数に存在する。有名な「出火吐暴威」という当て字が入った衣装など、その一部を手がけたのは日本人のデザイナー・山本寛斎氏だ。
これらの衣装が、実にめまいがするほどおびただしい数、展示されている。衣装をまとうマネキンには、1975年に作られたボウイのライフマスクのレプリカが貼り付けられていて、さながら無数のボウイの亡霊に取り囲まれているような錯覚を覚える。
もう1つは、少し矛盾するようだが、無造作に挿入される「ボウイ以外」の展示だ。
この『DAVID BOWIE is』展の特色として、ボウイが時代的に影響を受けた、ないし受けたであろう同時代のアーティストの情報が挿入されている。
ボウイは、常に自分のクリエイティビティと融合し得る、表現の「ツール」になるであろう外部の刺激を求めていた。いくつかの部品の組み合わせから、まったく鮮やかな独自の表現に到達するさまは、まるで発明家のようでもある。
それゆえに(逆説的に)、ボウイの音楽はそれらが溶け合う、さまざまな場所へとつながるターミナル(駅)になっているわけだ。
ボウイの宇宙には、無数のドアが眠っている。これを探訪する旅も楽しい。
ここまで読んでくれたボウイをよく知らない諸兄の中には、「なんだ、ボウイさんというのはずいぶん捉えどころのない人だなー」と感じる人もいるだろう。
SF世界のフォークシンガー、グラムロックの始祖、ガリガリに痩せたプラスチック(偽りの)・ソウル、ベルリンの青白い貴公子、水色のスーツに身を包んだスーパースター……。
確かに、ボウイのペルソナは無数に存在して、全貌をつかむことは難しい。しかし、ひとつだけ、誰にでも感じられる、ボウイ世界を貫く柱がある。
それは、彼の声だ。
いかなるジャンルの音楽でも、ボウイが歌うとジャンルの意味合いを消し去ってしまう。この驚異的な歌声は、彼の美学それ自体が、音として顕在化したかのようだ。ぜひ、展示と共に彼の声を感じてほしい。
そうそう! 番外編としては、日本限定の「David Bowie Meets Japan」コーナーの存在がある。前出の山本寛斎氏以外に、ここでは2人の日本人が登場し、ボウイについて語る。それは、故・大島渚監督『戦場のクリスマス』(83年)で、ボウイと共演した北野武&坂本龍一のお2人だ。「たけし、ボウイを語る」とは、なかなか新鮮な光景なので、お楽しみに。
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