宮崎駿監督が夢想した“理想郷”は愛知に実在した!? 生きることを楽しむ夫婦の記録『人生フルーツ』
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体罰問題でバッシングされた戸塚ヨットスクールのその後を追った『平成ジレンマ』(11)、暴排条例によって人権が奪われたヤクザ一家に密着取材した『ヤクザと憲法』(16)など、東海テレビが製作したドキュメンタリー作品は劇場公開される度に観る者に強烈なインパクトを残す。名古屋のローカル局というよりも、ハードコア系ドキュメンタリー製作会社としてのイメージが強い東海テレビだが、最新作『人生フルーツ』は風に揺られるナックルボールのようにゆらゆらと、それでいて観る者の心のストライクゾーンにすとんと落ちてくる作品だ。タイトルの通り、色とりどりで実に味わい深い。そしてドキュメンタリーながら、どこか宮崎駿監督作品のようなファンタジー世界を思わせる内容となっている。
東海地方では2016年3月にオンエアされた『人生フルーツ』の主人公は、90歳になる津端修一さんと87歳の英子さんのご夫婦。名古屋市のお隣・春日井市の高蔵寺ニュータウンの一角に津端さん夫婦は半世紀にわたって暮らし続けている。2人で毎日欠かさず庭の畑を耕し、自分たちが口にする野菜や果物はすべて自給自足。ひと仕事した後はゆっくりとお茶や英子さんが作ったお菓子を楽しむという悠々自適な生活を送っている。と、ここまではスローライフを実践している素敵な高齢者夫婦の1日をカメラで追っているだけなのだが、ご夫婦のプロフィールを知ることで、その穏やかな日常風景が滋味溢れるものに変わっていく。
妻・英子さんが「年をとって、よりいい顔になった」とのろける夫・修一さんは毎日野良仕事で忙しいが、本来の職業は建築家。丹下健三やアントニン・レーモンドのもとで学んだ修一さんは日本住宅公団のエース設計士として活躍し、阿佐ヶ谷住宅、多摩平団地など数多くの集合住宅を生み出してきた。団地マニアにとってはスーパースター的存在なのだ。国内最大級の事業と呼ばれた高蔵寺ニュータウンのグランドデザインも手掛け、地元の地勢を活かし、風の通る谷や緑を残した自然との調和を図った画期的な集合住宅を修一さんは目指していた。だが、実際に完成した団地は経済効率が優先された味気ないものになっていた。
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