日本映画に豊かさをもたらしたものは一体何か? 『この世界の片隅に』ほか2016年の話題作を回顧
#映画 #この世界の片隅に
震災から5年が経過した2016年を代表する作品がアニメーションや特撮であったのは、日本人の心情にアニメや特撮という表現媒体が憑代(よりしろ)としてフィットしやすいことも要因ではないだろうか。先述した3作品の他にも震災がモチーフとなった映画が2016年は目立った。佐藤信介監督の和製ゾンビ映画『アイアムアヒーロー』の序盤、パニック状態に陥った東京が壊滅していく過程はどこかデジャブ感を思わせるリアルさがあった。今のようなシステマチックな社会は、いつ破綻してもおかしくないという皮膚感覚に訴えかけてくる不気味さがあった。
西川美和監督の『永い言い訳』も震災がきっかけで生まれた作品に数えられる。『永い言い訳』の発端となるのは自然災害ではなく、スキーバスの転落事故だが、不慮の出来事によって大切な人に「さようなら」を伝えることができなかった後悔の念が作品のモチーフとなっている。妻(深津絵里)とは冷えきった夫婦関係にあった作家(本木雅弘)だが、事故で亡くなった妻への罪の意識から同じ事故の被害者遺族(竹原ピストル)の子どもたちの面倒を看ることになる。西川監督の師匠にあたる是枝裕和監督の『そして父になる』(13)や『海街dairy』(15)と同じく、血縁にこだわらない新しい家族像・人との繋がりを提示した作品として印象に残る。
岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』も3.11が生み出した作品のひとつだ。日本社会の息苦しさを嫌ってLAに移住し、『ヴァンパイア』(12)などの英語劇を撮っていた岩井監督だが、故郷の仙台が被災したことから帰国。震災そのものを劇映画にすることは叶わなかったが、黒木華を主演に迎えた『リップヴァンウィンクルの花嫁』では3.11後の不安定な格差社会を舞台に、職場からも結婚制度からもこぼれ落ちたヒロインが、逆に明るく伸び伸びとサバイバルしていく姿が描かれた。もうひとつ、3.11を題材にした作品として『夢の女 ユメノヒト』も挙げておきたい。『クローズアップ現代』(NHK総合)でも紹介された実話をベースにしたドラマで、40年間にわたって福島の精神病院で暮らしてきた男性患者が原発事故の影響で転院したところ、すでに完治していると診断され、浦島太郎のように唐突に現実社会に復帰することになる。ピンク映画界で長年活躍した佐野和宏主演による低予算ロードムービーだが、地位も権力もないひとりの市民という立場から震災後の社会を見つめた作品として見応えがあった。社会現象となった『シン・ゴジラ』の影に隠れてしまった感があるが、3.11直後の首相官邸の5日間を描いた『太陽の蓋』は日本があと一歩で壊滅する危機にあった事実を思い出させる迫真のポリティカルサスペンスだった。政治家たちの名前を実名でドラマ化した実録映画がようやく出てきたことも評価される。
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