子ども時代と地続きの関係の中で生きる楽しさと面倒くささ──「お笑い・プロレス・ドリームハイツ」三題噺でたどるサイプレス上野の足跡
#本 #インタビュー
――あと『練習帳』は随所にプロレスの表現が散りばめられてますね。サ上さんのプロレス好きは有名ですが、ついに来年は新日本プロレス東京ドーム大会のテーマを担当するという快挙を。
上野 さすがに世界第2位の団体だけあって、古参のプロレス原理主義者から批判の雨あられを浴びました(笑)。「今までのテーマがよかった」って。それ、いつも聞いてるハードロックみたいなやつだろ? ジャンル違うんですが、と(笑)。でもその言いたくなる気持ちはすごくわかるんです、俺も。まぁ、そこに対する思いを全部喋ると総攻撃食らうんで、このへんにしといてください。
――もともと団体はどこが好きなんですか。
上野 子どものころは新日、全日見て、FMW、W★ING、リングス……。ほぼほぼ全部見てました。近所の古本屋にすごい数の「週刊プロレス」のバックナンバーが置いてあったから、座って貪り読んでたんです。
――近所の誰かがプロレス卒業して売ったんでしょうね(笑)。
上野 働き出した兄貴と金を出しあってそれ買って、けど兄貴もプロレスを卒業して全部捨ててました(笑)。俺もその時はプロレスを見てはいても、のれない時期だったんで……。新日の暗黒期で、大日(大日本プロレス)からザンディクがいなくなった頃ですね。
――2000年代初頭ですか。
上野 それまでしょーもない大会に行って楽しんでいたはずなのに、面白がれなくなって肩落として帰るようなことが続いたんです。そのうちいろんなファンが入ってきても、もう俺だけのもんじゃねーんだ、みたいな気持ちにもなりました。「何も知らない新参者が……」と新規のファンを見下すイヤなプロレスファンになってしまった。
――それこそ今、ヒップホップに新参者のファンが入ってきているのは、どう感じてるんですか。
上野 ヒップホップはプレイヤーとしてそこにいるんで、また違う感情なんです。ニトロが盛り上がった時は、「知らねーやつがのっかってきやがって」ってにわかヘッズを超憎みました。そこで「ライブはやるけど興味ない」みたいな態度をとって、新譜ばかりかけてる友達のDJとぶつかったりもして、一回ヒップホップから離れたんです。だから『フリースタイルダンジョン』前からヒップホップ好きだった人は、あの頃の俺みたいに歯がゆい気持ちなんじゃないですか。でもプレイヤーがそんなことを言ってもしょうがないんで、棚橋選手みたいに布教活動するのが役目なんだなと。ブームといっても一過性で、「即興でラップできてすごーい」だけじゃないですか。まだ何も開花してない。これから続けていくためにも、顔と音源を売らなければいけないなと思ってます。
でもプロレスに関しては、いっこ抜けた感があるんです。10何年前から誰もいない大会でよく顔をあわせる、女の子のファンがいたんですよ。ガラガラの客席で、リングサイドの反対側にいるから、お互いに意識はしていて。FREEDOMSの興行に行った時、その子に声かけられて、「おまえ、いつもいるよな?」と話をしたんです。ちょうどデスマッチで、周りに友達もいたからギャーギャー騒ぐじゃないですか。そうしたら前に座っていたオタに「静かにしてもらえますか!?」と怒られちゃった。
昔だったら「はあ? ここは騒ぐ場所だろ。おまえバカじゃねえ?」と突っかかっていったはずなんですけど、あ~もうそれを言う必要ないんだなって。その瞬間、後楽園ホールの天井に魂が抜けていった気がしたんです(笑)。
――「もう自分の知ってるプロレスとは違う」と解脱しましたか。
上野 今、場外乱闘やっても、ファンがリングサイドの席から離れないから、若手がレスラーを止めたりしてるんですよ。昔は席がグシャグシャになって、気づいたら2階席からリングサイドに移動するような楽しみがあったのに(笑)。
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