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ベテラン海外ドラマライター・幕田千宏の「すごドラ!」

「歴史を背負って生きる」ということの重さがガツンと響く! エリザベス女王の半生を描く『ザ・クラウン』

 そしてこの頃、英国王室にとってエドワード8世がどれほど大きな禍根を残したのかというのも想像以上だった。エドワード8世ことウィンザー侯爵といえば、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの恋路を貫くために、玉座を捨てた人物。世に言う「王冠を懸けた恋」で知られる人物だ。しかし、『ザ・クラウン』での彼は、完全にヒール・ポジション。今でこそ皇太子が離婚した挙げ句、不倫相手と再婚していたり、その昔は別の女と結婚したいがために宗教を変えた王もいたわけだが、ともかく当時、離婚はご法度。彼が玉座を捨てなければ、弟のジョージ6世が即位することもなく、ひいてはエリザベスの即位もまずなかったわけで、エドワード8世は多くの人の人生を狂わせたことになる。「王冠を賭けた恋」といえばロマンティックだが、周囲がどれほど犠牲を払ったのか、その影響が想像以上に絶大だったことがドラマを見ているとよくわかる。そんな彼が本作において悪役的ポジションになるのは至って自然だが、それにしてもこのエドワード8世がまた微妙に性格の悪さをにじませる人物で、やはり本作のキャラクター構築の絶妙さにうならされるのだ。

 何より、このキャラクター構築を見事に体現した俳優陣たちの演技が秀逸すぎる。エリザベス女王を演じるクレア・フォイは、若かりし頃の女王が苦悩し葛藤しながら選んだ道が、今の英国王室の在り方につながっていくのだという説得力を持った演技を見せている。フィリップ殿下を演じるマット・スミスは、女王の添え物的な扱いをされる彼の屈折した人間性を体現。エリザベス女王の妹であるマーガレット王女を演じるヴァネッサ・カービーは、姉へのライバル心、そして奔放な性格で知られた彼女のもろさを繊細に演じている。英国王室の問題児エドワード8世を演じるアレックス・ジェニングスは、王族育ちのボンボン思考を持ちながら、半面、今ある立場がどうであれ、それでも王だと言い切るエドワード8世を演じきった。そして、シーズン1で重要な存在となるチャーチルを演じるジョン・リスゴーの存在感。彼の鬼気迫る熱演は、まさに鳥肌もの。本作の大きな見どころのひとつだ。

 こうした俳優陣の熱演が、今もその歴史を生きているエリザベス女王やフィリップ殿下だけでなく、すでに世を去り、歴史の一部となった人物に生々しいほどの肉付けをしているからこそ、本作はこれまでになく「歴史を背負って生きるということ」の重さが胸にガツンと響いてくるのだ。

 余談だが、クレア・フォイは、先に述べた離婚したいがために宗教を変えた(正確には分離した)王ヘンリー8世のチューダー朝が舞台の歴史ドラマ『ウルフ・ホール』では、王を狂わせた悪女アン・ブーリンを演じているので、見比べてみるのも一興だ。

★このドラマにハマった人におすすめ!
『THE TUDORS~背徳の王冠~』
『ウルフ・ホール』
『ダウントン・アビー』

●まくた・ちひろ
映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

最終更新:2016/12/14 21:00
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