迷宮入りした怪事件をメソッド演技で解明する!? 芸能界の闇と舞台がリンクする『貌斬り KAOKIRI』
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会議室に篭った監督たちはロールプレイと称して、顔斬り事件の被害者・実行犯・関係者をそれぞれスタッフがなりきって演じ、事件を様々な角度から再現していく。事件をリアルに再現することで、当事者たちがそのとき心に生じた感情までも甦らせようというものだ。これは演劇用語でスタニスラフスキー・システム、いわゆる“メソッド演技”と呼ばれているもので、アクターズスタジオ出身のマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンはこのメソッド演技を取り入れ、名優としての評価を手に入れている。だが、人間の深層心理のダークサイドに触れすぎ、同じくアクターズスタジオ出身のマリリン・モンローやモンゴメリー・クリフトは情緒不安定に陥ったとも言われている。劇中の監督、プロデューサー、助監督たちも長谷川一夫移籍騒ぎをめぐる芸能界の暗部だけでなく、自分たちの心の闇にも向き合わざるをえなくなる。
メソッド演技を活用して、迷宮入りした事件の真相を探ろうというアイデアがユニークだ。この発想はどのようにして生まれたのか、細野監督に尋ねた。
細野「『シャブ極道』を撮り終えて、『売春暴力団』(97)の脚本を書いていたとき、富士の御殿場に車で行った帰りに、『黒澤明の別荘がこのあたりにあるから探してみよう』ということになったんです。しかし、別荘が見つからない。そこでスタニスラフスキー・システムで黒澤明になりきって探してみようという話になり、何と本当に見つかった(笑)。スタニスラフスキー・システムという言葉は知っている。でも、そんなこと大げさに標榜しなくても役者も演出する側も分かっているよという、おちょくり半分、真剣半分から生まれたアイデアが舞台『スタニスラフスキー探偵団』(2010年初演)だった。映画ではいろいろ考え直し、再構成しています。長谷川一夫の顔斬り事件の本質は、非近代性だと僕は思う。ヤクザと映画界ががんじがらめの核となり、芸能の民が生きていた。そういう時代だった。しかし、日本人の意識も変化し、一般人がテレビに出始め、芸能の民がいらなくなってしまった。土地を売って金を得るバブルがダメ押しした。だからこそ、流浪承知で芸能の民として生きていこうとする人たちをこの映画で描いてみたいと思ったんです」
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