激しい会話劇『黒い十人の女』で見せる、天才・バカリズムのロジック
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このドラマ版では、たびたび登場人物同士が議論するシーンが登場する。「不倫は本当にいけないことなのか?」「いけないとしても、本当に別れないといけないのか?」などなど。
これは、バカリズムのコントを想起させる。たとえば「俺の斧」というネタがある。斧を落としてしまったきこりが、川から出てきた女神に「あなたの落としたのは金の斧? それとも銀の斧?」と問われ、正直に答えたら金の斧をもらえたというイソップ童話『金の斧』をモチーフにしたものだ。
バカリズムが扮するのは、この童話の最後にわざと斧を落として金の斧をもらおうとするきこりを思わせる男。童話では「金の斧を落とした」とウソをつくきこりにあきれ、何も渡さなかった。そこから、このコントは始まる。
「待って待って、帰るんですよね?」と、女神を呼び止めるバカリズム。「俺の斧は返してください」と。ウソをついた罰で返さないと主張する女神に「罪と罰のバランスおかしくないですか?」と、バカリズム節が始まっていく。そもそも、なぜ自分がウソをついていると言いきれるのか? それは、女神が自分で金の斧を用意したからだ。にもかかわらず、さも自分のものではないかのように、どれを落としたかと問うことも立派なウソではないか? どんな理由があろうともウソは罪だというならば、女神こそ罪を犯している。女神はそれを必要悪だと言うが、自分はこれまで犯罪歴はなく、他人を苦しめてきたわけではない。そんな自分を懲らしめるのは必要悪とは到底言い難く、ただの悪である。言うなれば、他人の斧を奪う強盗未遂。犯罪だ。だから自分には賠償を受ける権利がある、と女神を言い負かし、金の斧と銀の斧、果てはそれを入れる手提げ袋を女神から奪い取るというネタだ。
理路整然と矢継ぎ早に並び立てることにより、屁理屈もそうとは見えず、ついには常識を覆していく、バカリズムの真骨頂だ。
そうした会話劇が、このドラマの至るところで展開されていくのだ。
そして、それが最高潮に達したのが、第8話(11月17日放送)だ。この回は、ほぼ全編がワンシチュエーションの会話劇。佳代が10人の女を集め、風の殺害計画を語るのだ。
もちろん、それを聞いたほかの愛人たちは、その突拍子もない申し出に、最初は戸惑う。ここから、佳代はそれまでのウザくてダサい、言うなれば「バカ」キャラから一変。その仮面を脱ぎ捨て、バカリズムが憑依したような理論派へと変貌する。
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