「小さな映画館だって、社会にバズを起こせる」アップリンク社長が目指す新しいミニシアター像
#映画 #インタビュー
■寺山修司と伝説の劇団「天井桟敷」から受け継いだもの
──『モンサントの不自然な食べもの』は2012年にアップリンク渋谷で公開し、話題を呼んだドキュメンタリー映画。アップリンクの代表作を配信作品の第1弾ラインナップに入れたかっこうですね。
浅井 今、多くの人が関心を持っているのは食の安全でしょう。米国大統領にドナルド・トランプが選ばれましたが、トランプはTPP離脱を訴えて大統領選に勝った。それなのに、日本の与党はTPP承認案と関連法案を強引に採決しようとしている。おかしいよね。トランプは大金持ちだけど、中小企業のおっさんマインドの持ち主。大統領選を闘っていた彼はグローバル企業の意向なんて屁とも思っていなかっただろうけど、日本の与党には圧力が掛かっているようにしか見えないよね。本当に農作物の輸入を自由化して大丈夫なのかどうかを考えてほしくて、『モンサントの不自然な食べもの』を配信することにしたんです。それでね、配信を始めてアイデアがいろいろ湧いてきた。タイムリーに映画の配信をできるだけじゃなくて、他にもビデオジャーナリストが新たに撮った映像作品やインタビュー映像を「アップリンク・クラウド」で流すこともできる。映画館がテレビ局みたいに自由に使えるチャンネルを持ったようなものだよね。2020年には東京五輪があるけど、テレビ放映されないエクストリーム系の競技の中継や練習風景を流すこともできる。やりたいことがいろいろあって、人手が足りない状態ですよ(笑)。
──アップリンク渋谷で上映中の人気作『聖なる呼吸』を、「アップリンク・クラウド」では劇場価格よりも低料金で配信している点も気になります。
浅井 始めたばかりの「アップリンク・クラウド」を知ってもらうために、ネットではサービス価格の1,200円で提供(期間限定で30%オフのプロモーションコードを発行)しています。映画館は毎月1日や水曜サービスデには入場料が1100円になるので、その価格を意識したんです。全国にヨガ好きな人は多いんですが、『聖なる呼吸』を観てもらうためにアップリンク渋谷までみなさんに来てもらうのは難しい。でもネット配信なら、全国津々浦々に届けることができる。映画って観たいと思ったときに、届けることができるかどうかが大事だと思うんです。それもあって劇場公開と同時にネット配信することに踏み切ったんです。
──アップリンクとネット配信の関係でいうと、3.11直後に上映して大反響を呼んだドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』(10)を2014年にYouTubeで無料配信したことも記憶に新しいところです。
浅井 小泉元総理が『100,000年後の安全』を観て、脱原発に方向転換し、都知事選に細川さんを担ぎ出したタイミングで、僕も反原発派なので細川陣営を応援するつもりで無料配信したんです。正確には把握できてないけど、YouTubeのカウンターでは再生回数30万回以上でした。それでも、細川さんは負けちゃったけどね(苦笑)。でもさ、うちみたいな小さな会社でも、今のネット社会なら多少なりともバズを起こせるわけです。面白いと思いますよ。僕らが扱っている映画、広く言えばアートって、社会に対して疑問を投げ掛けることだと思うんですよ。映画という作品として表現することで、社会や既成のシステムに対する見方を変えてみせる。今あるインフラをうまく活用することで、社会にどう関わることができるかに僕はすごく興味があるんです。国家よりもグローバル企業のほうが権力を持っている現代社会に、自分たちがどう関わっていけるかですよ。
──アップリンクは2017年で創業30年を迎えることに。厳しい映画業界を30年間にわたってサバイバルしてきた心境は?
浅井 信じられないよね、アップリンクを始めて30年だなんて。でも、自分からは過去は振り返らないよ。設立時を知っているスタッフは自分以外には誰もいないし、創業何十周年とか銘打って派手にイベントやる企業って、その後の業績はどうなの? 企業の寿命30年という説もあるからね(笑)。
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