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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > どこか懐かしい『カピウとアパッポ』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.401

初めて逢うのに、どこか懐かしいアイヌの人たち。極上の音楽体験ドキュメント『カピウとアパッポ』

kapiapa02都内でアイヌ関連のイベントに呼ばれて歌う姉・絵美。家事や育児に追われているが、生活に根づいた歌唱スタイルを身に付けつつある。

 台本のないドキュメンタリーならではの面白さが中盤で待っている。絵美は子どもたちを連れてアイヌコタンに里帰りし、富貴子たち一家が温かく迎え入れる。仲良くハグしあう姉妹。ところが周囲のお膳立てでライブデビューの日程が決まり、しばらくすると姉妹間の雲行きが怪しくなってくる。富貴子が夫と経営しているアイヌ料理店で、子どもたちを寝付かせた後、かなり深酒した富貴子の感情が爆発する。ライブが迫っているのに満足に練習する時間がないこと、姉のライブデビューは自分がプロデュースしたかったこと……。多くの人に愛され、才能豊かな姉に対する憧れと嫉妬心が酒に酔って、いっきに吹き出す。「まぁまぁ」と富貴子の夫が仲裁に入ろうとするが、火に油を注ぐかっこうに。福寿草は美しいだけでなく、毒花でもあったことを思い出させる。だが、普段はのほほんとした姉の絵美も黙ってはいない。「フッキは何のために歌うの? 私は仕事のためじゃないよ。フッキと歌うときは仕事は関係ないよ」。故郷を離れて都会の片隅で暮らす姉と故郷に残って地元に根づいて暮らす妹、2人の本音がカメラの前で激しくぶつかり合う。

 5年がかりで本作を完成させたのは、山形出身で東京在住の佐藤隆之監督。大林宣彦監督や堤幸彦監督らのもとで助監督を務め、本作で劇場監督デビューを果たすことになった。アイヌ文化に魅了され、姉妹のドキュメンタリーを自主映画として撮ることになった経緯をこう語った。

「覚えている人は少ないと思いますが、『REX 恐竜物語』(93)という北海道を舞台にした映画があり、僕は助監督として就いていました。常田富士男さんがアイヌの老人役で出ており、所作指導としてアイヌのエカシ(長老)に来てもらったんです。そのときのエカシの存在感に僕は圧倒され、『いつかアイヌの映画を撮ってみたい』とアイヌについて調べるようになったんです。明治初期に東北や北海道を旅した英国人イザベラ・バードの『日本奥地紀行』という旅行記があるんですが、アイヌ民族のことを彼女は『彼らのように純朴で善意の人たちは見たことがない』と書き記しているんですね。僕もコタンを訪ねる度に同じように感じていました。100年前と違って今では生活様式は変わってしまっているはずなのに、それでもどこか居心地のよさ、懐かしさを感じさせるんです。姉妹のライブデビューを追ったドキュメンタリーですが、姉妹を育んだアイヌのコミュニティーそのものを撮りたかったのかもしれません」

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