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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 映画『無垢の祈り』が強烈すぎ!!
平山夢明の人気短編小説を完全映画化!

幼女虐待を描いた映画『無垢の祈り』が強烈すぎ!! ベテラン監督が自主製作に踏み切った内情とは……

ToruKamei撮影中の亀井監督。映画の内容はハードだが、撮影はキャストに精神的にも肉体的にも苦痛を与えないよう配慮して進められた。

■「闘うことにまるで興味がない」

――亀井監督の作品を振り返ってみると、本作で母親を演じた下村愛さんが穂花時代に主演した『テレビばかり見ていると馬鹿になる』(07)は引きこもりの女性が主人公で、『私の奴隷になりなさい』で壇蜜とのSMプレイに溺れる青年はそれまでずっと無気力に生きてきた。亀井作品は生きていく気力を持てずにいる人たちを描いていることが非常に多いです。

亀井 『幼獣マメシバ』の佐藤二朗さんも中年ニートでした(笑)。オファーの来た仕事は何でも受けている監督のように映るかもしれませんが、実は社会的に弱い立場の人間を描いているということで僕の作品は一貫しているんです。基本、自分が気に入った仕事しか受けないし、きちんとした原作がある場合以外は、なるべく自分がやりたい方向に持ってくるようにしています。僕の作品の主人公たちは、物理的に何かに立ち向かって闘うということは一切しません。僕自身が、闘うことに興味が持てないんです。優劣が歴然としてあるこの世の中で、弱者という立場にいる人たちは何を考えて過ごしているのだろうという部分に興味が湧くんです。その結果が動物モノだったり、引きこもりやSMだったりする。それが今回は児童虐待になった。ジャンルは違うけれど、描きたいことはいつも同じなんです。

――闘うことに興味がないとのことですが、映画製作の際にはプロデューサーたちとやりあうこともあるのでは?

亀井 もちろん、自分がやりたいことはプロデューサーに対して主張しますが、それは作品を作るために必要最低限なディスカッションであって、闘いだとは思っていません。殴るとか拳銃を撃つといった戦いや、オリンピックのようなスポーツも含め、物理的な争いごとにまったく関心が持てない。『スター・ウォーズ』(77)はちゃんと観たことがないし、『シン・ゴジラ』もまだ観ていません。『ゴジラ』シリーズで描かれるゴジラは何かのメタファーなんでしょうが、そんな怪獣と戦おうという人間の心理が僕には分からない(苦笑)。もちろん人間が生きていく上で、時間との闘いだったり、人間関係をめぐる闘いはあるわけで、僕はそちらに興味がある。他人と競って勝利を得るということには心が動かないんです。

――人間があまり好きでなく、闘うことに興味が持てない映画監督が、児童虐待を題材にした映画を撮り上げたことが興味深いです。

亀井 僕自身は、人間としてちゃんと生きていかなくちゃとは常々思っているんです。本当にちゃんとした大人は尊敬しています。でも、ほとんどの人はそうじゃない。ちゃんとした大人のふりをしているだけ。でも、そのことに文句を言っても何も始まらない。自分から世の中を変えようとはしないけど、世の中は変わってほしいとは思っています。『無垢の祈り』は最下層のどこにも行き場がない人たちの物語。悲鳴を上げたくても上げられない人たちなんです。今回、『無垢の祈り』を映画化したことで、悲鳴を上げられなかった人たちが悲鳴を上げられるようになればいいなと思うんです。「クリーンな世の中にしましょう」と言い出すと、表面に出てこない形でもっと酷な状況に追い込まれる人たちがいる。「イジメをなくしましょう」とキャンペーンを張れば、自分がイジメられていることを言い出せなくなる子どもたちが現われるわけです。本当の問題はそこじゃない。いちばん酷い目に遭っている人たちは何も話せなくなってしまう。僕にはどうすれば問題を解決できるかわかりませんが、他の監督たちとは違うことをやる監督がいてもいんじゃないかと思うんですよ。

――この映画のいちばんの恐ろしさは、これが決してホラーファンタジーではなく、現実の世界を描いているということですね。

亀井 中には「こんなこと本当にあるの?」と思う人もいるでしょうが、現代の日本では影に隠れているけれど大きな問題だと思います。本作を上映するにあたって怖いのは、実際に虐待に遭っている若い人が観て、映画の世界と現実とをシンクロさせてしまうこと。過去に体験したという人でもフラッシュバックしてしまう恐れがあるので、その点は気を付けてほしいし、映倫には通していませんが、自主的にR18+にしています。精神的にきちんと自律できている状態で観てほしいと思います。年明けから名古屋、京都、松本でも上映されることが決まったので、平山さんは各地でトークショーをやる気になっています(笑)。今回の『無垢の祈り』が成功例になれば、今後は平山作品の面白さをそこねることなく映像化しようという流れも起きると思うんです。平山さんの小説は『ダイナー』をはじめ人気作が多数あるので、次回はぜひ商業ベースで撮ってみたいですね。
(取材・文=長野辰次)

InnocentPrayer-photo23

『無垢の祈り』
(c)YUMEAKI HIRAYAMA /TORU KAMEI
原作/平山夢明 製作・脚本・監督/亀井亨 撮影/中尾正人 音楽/野中“まさ”雄一 美術/松塚隆史 録音/甲斐田哲也 音響効果/丹愛 出演/福田美姫、BBゴロー、下村愛 R18 10月8日より渋谷アップリンクにて上映中
宮崎キネマ館:11月14日~18日再上映/シネマスコーレ(名古屋):17年1月上映予定/松本CINEMAセレクト:17年2月上映予定/京都みなみ会館:2017年上映予定
http://innocentprayer.s2.weblife.me

●亀井亨(かめい・とおる)
1969年福岡県福岡市出身。RKB毎日放送で情報番組のディレクターを経験後に上京。石井隆監督作品の演出部で活動し、『心中エレジー』(05)で監督デビュー。本作で母親役を演じた下村愛(穂花)主演作『テレビばかり見ていると馬鹿になる』(07)や『ヘクトパスカル』(09)、佐藤二朗主演作『幼獣マメシバ』(09)、カンニング竹山主演作『ねこタクシー』(10)、塚地武雅主演作『くろねこルーシー』(12)など数多くの作品を手掛けた。壇蜜初主演作『私の奴隷になりなさい』(12)は大ヒットを記録。性同一障害を題材にした『アルビノ』(16)もアップリンクで公開されている

最終更新:2016/11/08 23:37
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