傲慢で残酷で美しい青春! 小松菜奈&菅田将暉主演で『溺れるナイフ』を映画化した平成生まれの才人って?
かつて中上健次原作、北大路欣也・太地喜和子主演映画『火まつり』(85年)が撮影された和歌山県勝浦を舞台にした本作は、名シーンの目白押しだ。出会って間もないコウと夏芽が禁断の海で戯れる水中シーン、熊野信仰が伝わる熊野の森の中での写真集の撮影シーン、刷り上がった写真集をめぐってコウが夏芽を追いかける石畳のシーン、チャリンコに2人乗りしての海岸線の疾走、2人の運命を変える神秘的な火まつり……。夏芽のことをずっと見守ってきた同級生の大友(重岡大毅)と一緒に、夏芽がツバキの花の蜜を吸う場面も忘れがたい。本作の撮影が行なわれたのは、小松菜奈の10代最後の夏。10代の自意識を主題にした映画を撮る、ギリギリのタイミングだった。
「女の子たちが、なぜ小松菜奈さんと菅田将暉さんに憧れるのか、きっと誰よりもわかるんです」と公言するのは本作を撮り上げた平成生まれの山戸結希監督。上智大学在学中に撮った処女作『あの娘が海辺で踊っている』(12年)がポレポレ東中野でレイトショー公開された早咲きの才人だ。続く『おとぎ話みたい』(13年)はテアトル新宿のレイトショー観客動員記録を更新。人気アイドル・東京女子流が主演した『5つ数えれば君の夢』(14年)では女子高に通う女の子たちのかわいらしさとえげつなさの両面を暴き出してみせた。また、小松菜奈のブレイク作『渇き。』(14年)のメイキング映像も手掛けている。山戸作品のヒロインたちは少女としての自分の寿命がとても限られたものだということを自覚しており、それゆえにガムシャラに生き急ぐ。本作では10代特有の透明感をたたえた美少女のその美しさをうまく飼い馴らすことができずにいる焦燥感と、怖いもの知らずの不良少年が抱く万能感とがスピリチュアルムード漂う勝浦の海で正面衝突し、まぶしい閃光を放つ。
小松菜奈&菅田将暉という売れっ子を起用した本作の撮影期間は、わずか17日間。もう少し腰を据えてじっくりロケ撮影していたら、映画史に残る大傑作青春映画に仕上がったのではないかという気もしないではない。そう感じるほど、完成した作品は荒々しさが残る。でも、原作コミック17巻分を1日1巻ペースで撮り切ったスタッフとキャストの集中力を考えれば、短期間ロケだったからこそ主人公たちの刹那的な輝きをカメラに収めることができたのだろう。本作が俳優デビューとなるドレスコーズ・志磨遼平のよそもの感、夏芽の母親役を演じた市川実和子(小松菜奈と並ぶと驚くほどそっくり!)などのキャスティングもハマっている。キャストも監督も2度と同じものは残せない、美しく、そして壊れやすい青春の輝きを本作の中にしっかりと刻印してみせた。
(文=長野辰次)
『溺れるナイフ』
原作/ジョージ朝倉 脚本/井土紀州、山戸結希 監督/山戸結希
出演/小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅、上白石萌音、志磨遼平、斉藤陽一郎、嶺豪一、伊藤歩夢、堀内正美、市川実和子、ミッキー・カーチス
配給/ギャガ 11月5日(土)より全国ロードショー
(c)ジョージ朝倉/講談社 (c)2016「溺れるナイフ」製作委員会
http://gaga.ne.jp/oboreruknife
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