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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 『この世界の片隅に』監督が語る

貯金ゼロ目前、食費は1日100円……苦境極まった片渕須直監督『この世界の片隅に』は、どう完成したか

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■放っておいても仕事は来る。それでも……

──正直なところ、監督の才能と実績であれば、放っておいても仕事は次々と来るでしょう。なのに、あえて苦労して貯金を削ってまで、自分の作りたい作品のほうを選んだわけです。あらゆるジャンルのものづくりにおいて、お金選ぶか、自分の作品を選ぶかは究極的な選択だと思います。監督が、苦労してまで自分の作品をつくるほうを選んだのはなぜでしょうか。

片渕 確かに、仕事は来ます。でも「そこに身を委ねていていいのか」と考えます。こういうマンガがすごく有名で読まれているから、アニメーションにしましょうという話が舞い込んできたときに、乗れたのは『BLACK LAGOON』だけでした。

『BLACK LAGOON』の前に『アリーテ姫』で<自己実現とは何か>を問いました。『アリーテ姫』では「こうやってやれば、自己実現のために自分を奮い立たせるための根拠を見つけることができる」ことを描きました。

けれども、世の中には自己実現をしようとしても、全然違う、例えば犯罪者への道を歩んでしまう人生だってあるわけです。戦争の中では自己実現も何もないわけじゃないですか。

そういった意味合いを手がけておかなくては、その先には進めないと思ったときに、目の前に現れたのが『BLACK LAGOON』だったのです。

その制作を通り過ぎてようやく描けたのが『マイマイ新子と千年の魔法』の子どもたちの世界だったのです。それは『この世界の片隅に』に直結していくわけです。

だから、自分がこの瞬間にこういう作品やりたいと思ったときに、うまくハマるような企画の提示があるのならば、よそから提示されたものにのっかるのはやぶさかではありません。

けれど『この世界の片隅に』は、よそから提示はされていない、本当に自分が今までやりたいといってきたものです。だから、完成に至らなければ、自分がやりたいものは、やれないままになってしまうと、意地のようなものが芽生えました。

そうそう、先日、のんちゃんと一緒に(PRで赴いた映画の舞台である)呉の坂道を登っている写真を見て『恩讐の彼方に』の、穴を掘り続ける坊さんと、その弟子の若者みたいだなという感想をもらいました。『名犬ラッシー』の準備が始めてから21年目で、洞門が開通する瞬間、今がそのときなのかもしれません。

 * * *

 この日、片渕監督は昼食のための休憩も取れないほどの取材ラッシュであった。そうした過密スケジュールにもかかわらず、監督は真摯に質問に答えてくれた。原作者のこうの史代さんが「運命」と言い、主演の、のんさんに「私にやらせて頂けたら、本当にうれしいです」とまでいわしめたのは、作品作りに対する誠実さと、強い意志が伝わったからに違いない。

 そして、貯金がゼロ目前になっても支えてくれる家族や仲間、無数のファンの存在こそが『この世界の片隅に』を完成に導いたのだと改めて感じた。ここに記された言葉は、あらゆる、ものづくりに携わる人々に共有されるべき言葉なのではなかろうか。

 11月12日以降、アニメーションをとりまく状況がガラリと変わる気がしてならない。
(取材・構成=昼間たかし)

●『この世界の片隅に』
原作/こうの史代 監督・脚本/片渕須直 音楽/コトリンゴ 
出演/のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、藩めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外
配給/東京テアトル 11月12日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
http://konosekai.jp

最終更新:2017/02/06 19:11
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