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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > “自殺希少地域”の共通点とは?

精神科医が見つけた“自殺希少地域”の共通点とは――『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』

 また、同じ町に滞在中、親知らずを抜いたばかりで、痛みでどうしようもなくなってしまった。最初はスマホで歯科医院を探していたが、ゴールデンウィークだったので、どこも閉まっていて、電話をしても、当然断られる。困り果てて、旅館の主人に相談した。すると、「この町の歯医者は今日は休みやけど、さっきいるの見たから起こしてきちゃろう」とか、「ここから82キロ先にある歯医者が今日はやってるのがわかったから、送るわ」と、いろいろなツテを使って情報をかき集め、その場で、解決してくれようとした。その結果、近所の人たちから、「あんた、歯が痛いひとやろ、大丈夫か?」と声をかけられることになるのだが、それは、田舎特有のウワサがすぐに広まってしまう、というようなどこか暗いものではなく、本人まで筒抜けのウワサ話だった。なお、最終的に、近所に住んでいた元看護師さんの家に案内され、事なきを得た。

 森川さんは、こうした“ちょっとした”出来事であったり、そこに住む人々の人と人の関わり合いを垣間見る、あるいは、体験することによって、なぜ「自殺希少地域」なのか、納得をしていく。その最も大切なことは“対話”だ。とにもかくにも、対話をすること。困ったことがあれば、人に相談し、ひとりで抱え込まない。

 この本には、ある意味では、当たり前のことが描かれている。けれど、都会で暮らす人にとっては、「あぁ、もっと人に助けを借りてもいいんだ」とか「もっと適当でいいんだ」とか、少なくとも日本にもそういう地域があるということが感じられ、ほっとするだろう。

 このほかの「自殺希少地域」でも、たくさんの“ちょっとした”気になる出来事がちりばめられている。それぞれのエピソードに驚き、笑って、なるほど、そういう人付き合いや心の持ち方って大切だな、なんて思う。

 心の病を持っていなくても、日本には、都会で生活する独特の息苦しさや、仕事で多忙な毎日に疲れ切っている人も多い。そんな人たちにとっても、生きやすさとは何かを考えるきっかけになり、小さなヒントを与えてくれる一冊だ。
(文=上浦未来)

●もりかわ・すいめい
1973年まれ。精神科医。鍼灸師。現在、医療法人社団翠会みどりの杜クリニック院長。阪神淡路大震災時に支援活動を行う。また、NPO法人「TENOHASI(てのはし)」理事、認定NPO法人「世界の医療団」理事、同法人「東京プロジェクト」代表医師などを務め、ホームレス支援や東日本大震災被災地支援の活動も行っている。アジア・アフリカを中心に、世界45カ国をバックパッカーとして旅した。著書に『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫)がある。

最終更新:2016/11/01 21:00
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