知らぬ存ぜぬは許しません!! 90歳の認知症患者がナチス狩りに燃える復讐談『手紙は憶えている』
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荒唐無稽な復讐劇のように思えるが、物語を構成している要素はリアリティーのあるものばかりだ。終戦の混乱に乗じ、身分や名前を偽って海外に脱出したナチス関係者は、アドルフ・アイヒマンをはじめ多数に及んだ。ナチスハンターとして活躍したサイモン・ヴィーセンタールは生涯に1100人ものナチス戦犯を捕らえ、彼の名前を冠したLAの「サイモン・ヴィーセンタール・センター」ではホロコースト関係の記録を保存し、世界各地に今も潜伏しているナチス戦犯についての情報を収集している。マックスはこのセンターから“ルディ・コランダー”についての情報を得たことになっている。また、ナチスによる戦争犯罪は時効が成立せず、アウシュビッツで事務仕事をしていた実在の人物オスカー・グレーニングは2015年に94歳で起訴され、4年の刑を言い渡されている。だが、オスカーのように刑が確定するケースは稀で、高齢化したナチス戦犯の多くは告訴されても裁判中に自然死してしまう。ゼヴやマックスはそれを許さない。ルディ・コランダーが生きている間に復讐を果たそうと、ゼヴはもつれそうになる足を懸命に前へ前へと進める。
4人いる容疑者をひとりひとり訪ねて回るゼヴ。今どき個人情報はなかなか教えてもらえないが、90歳のおじいちゃんのゼヴは戦時中の古い親友を探し歩いているようにしか見えず、旅先の人たちからは親切にされ、容疑者宅に無事辿り着くことに成功する。だが、ゼヴがそこで見る光景は、ドイツから逃げるようにして米大陸に渡り、ひっそりと暮らしてきた者たちの痛々しい姿だった。ある者は「ドイツ軍にはいたが、アウシュビッツで何が起きていたのか戦時中は知らなかった」と無罪を主張し、またある者はゼヴのことを元ナチス兵だと勘違いして、ハーケンクロイツの旗を飾った部屋で手厚く歓迎しようとする。ゼヴと同様に、4人の“ルディ・コランダー”たちもまた生々しい戦争の記憶に取り憑かれたままだった。悲惨な復讐旅を続けるゼヴとドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』(87)の怪人・奥崎謙三との姿がどこか重なって映る。自分自身で落とし前をつけなくては、彼らはどんなに時間が流れても終戦を迎えることができないのだ。
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