【激動のAV業界】ターニングポイントは2008年? 「恵比寿マスカッツ」と「MUTEKI」誕生が意味するもの
#アダルト #恵比寿マスカッツ
■AVと芸能をごちゃ混ぜにして誘うスカウトがまん延
一連の騒動の発端となったAV出演強要問題──しかし、本当に業界内では、こうした被害がまん延しているのだろうか? 私は拙書『モザイクの向こう側』(双葉社)の取材20人以上の業界関係者に話を聞いたのだが、大半の関係者は「昔に比べて、今のAVはクリーン」だと語った。
20年前であれば、ヤクザまがいの者が業界で幅を利かせ、女性をソープに落としたり、AV出演を強要したりする事例は日常茶飯事だった。しかし、近年、AVの位置付けは大きく変わっていて、アイドルを目指すようにAV女優を目指す女性が増えてきた。
その転換期が、08年だったと思う。この年、恵比寿マスカッツがデビューし、芸能人AVレーベル「MUTEKI」が誕生した。そして同時期に、無数の着エロアイドルがAVに流入し、本来であれば相いれないはずの、芸能とAVの垣根が崩れたのだ。
AV出演強要が話題となったとき、多くの女優は、問題を提起した団体に怒りの声を上げた。それは「今のAVは無理やりやらされるようなものではない」という思いからだった。「アイドル強要」という言葉が生まれ得ないのと同様、「AV強要」という言葉もあり得ないというわけだ。
では、強要被害は存在していないのかというと、そんなことはない。被害者支援団体の報告を見ると、「アイドルになれる」といった言葉で業界にいざなわれている女性が多いことがわかる。都内の大手AVプロダクションのマネジャーが、匿名を条件に裏事情を打ち明けてくれた。
「昔は“パーッと稼いで。留学にでも行こう”って誘い方だったんですよ。AVは風俗みたいな位置付けだったから、カネで誘っていたんです。でも、今は業界も不況だから、そんなに稼げなくなっている。それで“蒼井そらみたいになれる”とか、“恵比寿マスカッツみたいになれる”とか、芸能志望の女の子たちの心をくすぐるような誘い方をするわけです。“売れないグラドルやるぐらいなら、AV女優になりなよ。布取っ払うだけで、『フラッシュ』や『フライデー』や『プレイボーイ』みたいな大手雑誌にだって出られるよ”とか、言ったりもしますね」
芸能とAVが、あたかも同一平面上に存在しているかのような誘い方が主流になっているというのだ。これは、AVと芸能の垣根が崩れかけてきたからこそ、生まれ得た誘い文句だといえる。
しかし、テレビ業界のコンプライアンスも厳しい昨今、ひとたびAVに出演すると、大幅に芸能活動が制限されるのが現状だ。この誘い文句には、大いに問題があるといえよう。
確かに、AV業界の地位は昔よりも向上した。しかし、AVを取り巻く法は非常に危うく、AVデビュー後の芸能活動へのステップアップのルートは確立されていない。出演強要問題を考察する上では、そんな業界のチグハグさを理解する必要があるだろう。
(文=井川楊枝)
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