興収200億円も視野に入る『君の名は。』の大ヒットと、新海誠“次回作”への「たったひとつの不安」とは
興業収入が130億円を突破し、その先に150億円、いや200億円までも視野に入り始めた『君の名は。』。配給の東宝内では、早くも「正月の映画が1本増えたつもりで全力でこの映画に力を注げ」と号令があがっているという。
毎日のようにこの作品のニュースが流れる中、新海誠監督が「第21回釜山国際映画祭」で次回作に言及し、「思春期の男女を扱ったものを3年以内に作る」ことを明らかにした。「思春期の男女を扱ったもの」という新海監督の最も得意とする題材での新作宣言ということもあり、早くもファンや業界からは期待の声が上がっている。
しかし一方で、『君の名は。』があまりにヒットしすぎたことで、否定的な声も多数あがってきている。例えば「おたぽる」でもすでに記事となったが、漫画家の江川達也氏の発言がそうであろう(参考記事)。また、放送作家である堀田延氏もTwitter(@nobubu1)で同作品に対して否定的な投稿をし、話題となった。
どんな大ヒット作品であってもアンチが存在してしまうのは仕方のないことだ。好きになる人が増加する一方で、好きになれなかった人も比例して増えていくのは『君の名は。』に限ったことではないし、アンチが増えることが大ヒット作のバロメーターともいえる。
ただ、これまで新海監督作品を全て追いかけてきた人たちにとって、ここまでヒットしてしまったことで、3年以内に公開されるであろう新作に対して不安の声がちらほらあがっているのも事実だ。
それは、『君の名は。』がある意味、新海監督の集大成のような作品で、過去作品で見られた演出や構図のオンパレードだったからだ。
例えば、予告編でも見られる三葉がティアマト彗星を見上げるシーンは、『秒速5センチメートル』の第2話で酷似した演出のシーンがあるし、雨の中、傘をさして三葉と瀧がすれ違うシーンは、同じく『秒速5センチメートル』の最終話の演出と酷似している。死後の世界に触れて現実に変化を与えるモチーフは『星を追う子ども』、夢でつながる世界と記憶の消失は『雲のむこう、約束の場所』でも見られたテーマだった。このように『君の名は。』を観たら、このシーンは過去作のどこそこの演出と同じだね、といった既視感を持つ瞬間がたくさんあるのだ。
ディープな新海ファンにとっては、この「前の作品でも見た」「どこかで見たことがある」モチーフを圧倒的な情景描写と抒情的なセンチメンタリズムで描ききることこそが魅力であり、新海作品と既視感は常にセットともいえた。それこそが新海監督らしさであり、期待されている部分でもあっただろう。しかし、次回作も『君の名は。』のように新海節のオンパレードになれば、ディープなファンは期待通りだとしても、そうでないファンには許容されず「前回と同じ」「引き出しがない」などと言われ、飽きられてしまう可能性も否定できない。
『君の名は。』は、さまざまな声があるものの実際面白いし、実に新海監督らしい演出でファンからすれば大満足の作品であることはまちがいないが、今回のメガヒットはこれまでの新海監督が描く空気感の演出に触れたことがない人たちが、初めてそれに触れたことで情景の美しさに感動し、ヒットにつながったという部分もあるだろう。
「日本を代表するアニメ監督」という座を用意された今、次回作への期待はいやがおうにもの大きなものになるし、新海監督自身がそれを一番理解しているはずだ。次回作で新海監督が本当に日本を代表するようなアニメ監督の座に就けるか、真価が問われるかもしれない。
(文=Leoneko)
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