“カメラは人間の魂を吸い取る”は迷信じゃない!? 黒沢清監督の恋愛幻想譚『ダゲレオタイプの女』
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物語の後半、マリーは尋常ではない長時間の撮影を終え、心身ともに疲弊しきってしまう。父親が操るダゲレオタイプに若さを吸い取られたマリーは、生きているのか死んでいるのかもはや区別がつかない。そんな陽炎のような存在となったマリーをジャンは連れ出し、小さなアパートでの同棲を始めた。家族の束縛から脱した恋人たちの束の間の新婚生活だった。ジャンは愛するマリーが生者なのか死者なのか分からず、気が気ではない。ただ、ジャンが抱きしめているマリーは、以前よりもずっと美しくなっていることは確かだった。人間がもっとも憧れ、どんなに札束を用意しても手に入らない恋愛感情とは、何ともあやふやで足元がおぼつかないことか。
永遠の愛は死を呼び寄せ、一瞬の生が美しい夢のように奏でられる。黒沢監督が異国で念写した幻想譚はとても甘く、そしてせつない。19世紀に活躍したエドガー・アラン・ポーやサニエル・ホーソーンの幻想文学を彷彿させる妖しさが、観る者の心を奪う。“カメラは人の魂を吸い取る”という古い都市伝説を、本作を観た後では単なる迷信だとは思えなくなる。
(文=長野辰次)
『ダゲレオタイプの女』
監督・脚本/黒沢清 撮影/アレクス・カヴィルシーヌ 音楽/グレゴワール・エッツェル
出演/タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリック
配給/ビターズ・エンド PG12 10月15日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
(c) FILM-IN-EVOLUTION – LES PRODUCTIONS BALTHAZAR – FRAKAS PRODUCTIONS – LFDLPA Japan Film Partners – ARTE France Cinema
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