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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.395

幸福そうな一家を崩壊に追い込む八坂の正体は? 家族への幻想を砕く浅野忠信主演作『淵に立つ』

fuchi-movie03八坂が消えた鈴岡家で働くことになった山上(太賀)。八坂と同じように、彼もまた鈴岡家の人々とドライブへ出掛けるが……。

深田「家族制度に対する不信感は子どもの頃からあります。映画やテレビを観ていても、理想の家族像を描くことで、ある種の感動を呼ぶ作品に違和感を抱くことが多かった。いわゆる家族ドラマとは違うジャンルの作品、例えばハリウッドのアクション映画などでも、バラバラだった夫婦や家族が困難を克服することで絆を取り戻す話は多い。ある理想の家族像をフィクションが拡散することは、それ自体が多様な家族像への抑圧ではないかと思っていたし、作り手の多くがそれに無自覚であることには怒りさえ感じていた」

 深田監督の言葉に従えば、映画やドラマ製作者たちの無自覚な意識が予定調和的な多くの虚像を繰り返し生み出し、人々を苦しめ続けているということになる。まさにイドの怪物ではないか。気になる『淵に立つ』というタイトルだが、これは深田監督が演出部として所属している劇団「青年団」を主宰する平田オリザの「人間を描くということは、崖の淵に立って暗闇を覗き込むような行為」という言葉から思いついたものだそうだ。意を決して崖の淵から闇を覗き込むと、冷たい目をした八坂が黙ってこちらを見つめ返してくる。八坂はやはりイドの怪物なのだろうか、それとも温かい家族という幻想をきれいに食べ尽くしてくれる獏のような存在なのだろうか。くれぐれも気をつけて、淵の下を覗いてみてほしい。
(文=長野辰次)

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『淵に立つ』
監督・脚本・編集/深田晃士 出演/浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治、太賀、三浦貴大、篠川桃音、真広佳奈 
配給/エレファントハウス、カルチャヴィル 
10月8日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー
(c)2016「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS 
http://fuchi-movie.com

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