深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.395
幸福そうな一家を崩壊に追い込む八坂の正体は? 家族への幻想を砕く浅野忠信主演作『淵に立つ』
2016/10/06 20:00
#映画 #パンドラ映画館
鈴岡家に住み込むで雇われた八坂(浅野忠信)。いつも白いシャツを着た八坂は、ご飯を食べるのが尋常ではなく速かった。
八坂を見て思い出したイドの怪物だが、どんな武器も歯が立たない不死身の怪物の正体は人間が持つ潜在意識だった。禁断の惑星アルテアにはかつて人類よりも遥かに進んだ先住民族が栄えていたが、文明が洗練されすぎた結果、押し隠していた潜在意識がコントロールできないほどの巨大なモンスターとなり、文明を滅ぼしてしまった。そのイドの怪物が今度はアンドロメダ号の船員たちに襲い掛かる。八坂もまた鈴岡家の潜在意識を読み取ってしまう。ひとりで長い刑期を終えた八坂に対して、利雄は深い罪の意識を抱いている。妻の章江は八坂のことを受け入れるのと同時に、男性的な興味も感じるようになっていた。八坂は鈴岡家の人々が心の中で密かに思っていることを、善悪の区別なしにそのまま具現化してしまう。八坂とイドの怪物はとてもよく似ている。
八坂が姿を消して8年の歳月が流れ、ひとりの若者・山上孝司(太賀)が利雄の工場で働き始める。山上は屈託のない好青年で、彼が新しく鈴岡家に加わったことで、一家は調和を取り戻すのではないかと観客は期待を寄せる。純朴そうなこの若者が、家族再生のためのキーパーソンになるに違いないと。ところが山上の身の上を知ったことで、鈴岡家はより過酷な運命を辿ることになる。家族や血の繋がりといったものに対する甘い幻想を、深田監督は八坂と共に容赦なく剥ぎ取っていく。
1980年生まれの深田監督のシビアな家族観がとても興味深い。劇場用パンフレットに掲載されたオフィシャルインタビューで、このように語っている。
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